第76話:陛下との約束
「アイリーン、まさか兄上と…」
「聞いたか?ジルバード、アイリーンは王妃になりたいのだってさ。だから言っただろう?国王になれない君を選ぶことはないと!さあ、アイリーン、そんな男にだかれていないで、こっちにおいで」
すっと手を伸ばすレドルフ殿下。この男、何を勘違いしているのかしら?
「レドルフ殿下、何か勘違いをされている様ですね。陛下、魔王討伐に行く前日、私とのお約束を覚えて下さっていますか?今こそその約束を、守って頂きますわ」
陛下の方を真っすぐと見つめて、そう叫んだ。
「ああ、分かっている…皆の者も聞いてくれ。私とアイリーン嬢は、魔王討伐前日、ある約束をした。その約束が“もしアイリーン嬢が魔王を倒すことが出来たら、第二王子でもあるジルバードを、次の王にする”というものだ!彼女は魔王を倒すという重大な責務を全うしてくれた。
その為、近々王太子の座を、ジルバードに譲ろうと思う。レドルフ、お前は近々王太子の座を降り、ジルバードを支える家臣として、いずれ臣籍降下してもらう。もちろん、公爵位という地位と、土地も与える予定だ」
「どういうことですか?どうして僕が、王太子をやめないといけないのですか?僕は第一王子なのに…」
「確かにお前は第一王子だ。だが…魔王が復活した時、お前は何をした?私や王妃、さらにはたくさんの貴族たちが自らの意思で魔物たちと戦う中、1人安全な王宮内で豪遊していただろう。
その様な人間に、国王は務まらん。ジルバードは実際魔王討伐に参加し、アイリーン嬢と共に戦ったんだ。ジルバードこそ、次の王にふさわしいと私も考えている」
「陛下のおっしゃる通りです。ジルバード殿下は、騎士団の団長として騎士団をまとめ上げ、アイリーン嬢と一緒に最前線で戦われたのです。それなのに、レドルフ殿下はどうでしょう?陛下や王妃殿下ですら魔物たちとの戦いに参加している中、1人安全な場所で遊んでいたではありませんか。
はっきり言って、我々もレドルフ殿下が国王陛下になられるのでしたら、とても忠誠は誓えません」
「確かにそうですな。それに何よりも、魔王を倒した英雄、アイリーン嬢がジルバード殿下を王にと望んでおられるのですから」
「まさかアイリーン嬢が、陛下とその様な約束をされていただなんて。ジルバード殿下は、アイリーン嬢が魔力を開花させる以前から、彼女に寄り添い守り続けていたと聞きます。
そんなジルバード殿下と添い遂げたいとアイリーン嬢が考えるのは、自然な流れかと」
「アイリーン嬢とは、正式に書類を交わしている。この書類がある限り、アイリーン嬢との約束を覆す訳にはいかない。ジルバード、今まで辛い思いをさせてしまって、本当にすまなかった。
お前ならきっと、私以上に立派な王になれるだろう」
「ジルバード、よかったわね。これからはアイリーンちゃんと手を取り合い、立派な国を作っていってちょうだい。あなたなら、それが出来るはずよ。アイリーンちゃん、ジルバードの為に、陛下とこのような約束を交わしてくれて、本当にありがとう。
あなたがいてくれて、ジルバードも救われたわ」
「お礼を言うのは私の方ですわ。私が魔王と戦うと決めたのも、魔王を倒せたのも、元をただせばジルバード様のお陰なのです。彼が傍でずっと私を支え続けてくれていたから。ジルバード様、どうかこれかも私と共に、この国を守って行きましょう。
もう二度と、魔王に怯える事のない平和な国を、2人で作って行きましょう」
4000年もの間、ずっと苦しめられ続けてきたジルバード様の魂。どうか今度こそ、彼の魂が報われますように。
「アイリーン…ありがとう。まさか君が、父上とそんな約束をしていただなんて…ああ、そうだね。これからは平和な国を2人で作って行こう。父上、母上、それからここに集まっている貴族の皆様、第二王子として育った私ですが、兄上にもしもの事があったとこを考え、王になる勉強は人一倍励んできたつもりです。
とはいえ、まだ国王になるには未熟な部分の多いでしょう。それでも私は、アイリーンと共に、この国を守っていきたいと考えております。どうかこれからも、私ども2人を支えていただきますよう、お願いいたします」
涙を流しながら頭を下げるジルバード様と一緒に、私も頭を下げた。その瞬間、溢れんばかりの拍手が沸き起こった。
こうしてジルバード様は、正式に王太子になる事が内定したのだった。




