第73話:やらなければいけない事がまだあります
「皆様、着替えを行いますので、一度お部屋から出ていただけますか?」
「ちょっと…アイリーン…」
皆を追い出し、急いで着替えを済ませて部屋からでると、ジルバード様が待っていた。
「アイリーン、そんなに急いでどこにいくつもりだい?いくら魔力が戻ったからと言って、そんなにすぐに動くだなんて。それに3日間も意識がなかったのだよ。それなのに、急に動いたりして。街なら既にほぼ元通りに戻っているよ。
レア・クレスロンの処罰も、既に令嬢たちによって進められ、刑も執行された。彼女たち、あんなにアイリーンを虐めていたのに、掌を返したようにアイリーンにすり寄ってくるだなんて!
いくら前世では命を懸けて戦ってくれた大切な友人だからって!君は優しいから既に許している様だけれど、俺は彼女たちをまだ許しきれていない。確かに彼女たちのお陰で、魔王は封印できたし、アイリーンの命も救われたかもしれないけれど…
どれでも俺は!」
唇を噛み、強く拳を握るジルバード様。そんな彼の手を、そっと握った。
「ジルバード様のお気持ちは分かりましたわ。ただ、彼女たちはずっと、魔王の呪いで性格をゆがめさせられていたのです。詳しいお話しは、後でさせていただきますが…
それよりも、レア様が処罰されたとは?」
「ああ、あの女はあろう事か、500年前の英雄、ジャンティーヌを名乗り、兄上を騙して王妃の座を狙っていたからね。英雄を名乗るのは、英雄に対する冒涜きわまりない事から、国外追放になったよ。
さらにその一族も、貴族をはく奪される事になった。これでもう、クレスロン男爵家はもうなくなったよ」
「クレスロン男爵家が、なくなったですって…」
確かに彼女は、あろう事かジャンティーヌの生まれ変わりと嘘を吹き込み、周りに多大なる期待を与えた。でも、全くの嘘だったのだ。英雄への冒涜は、重罪に値する事を考えると、国外追放は妥当だろう。
ただ彼女の一族は、4000年前魔王誕生のきっかけを作った、闇の一族とつながりがあった人達だ。男爵家が潰されたという事は、彼女の家族は今後平民として生きていく事になるだろう。
もしもまだ、クレスロン元男爵家が、闇の魔力を持つ一族と繋がっていたとしたら…
「大変だわ…ジルバード様、今すぐ元クレスロン男爵家の一族を…」
「アイリーン様、お目覚めになられたのですね。よかったですわ」
「皆様…お元気そうでよかったですわ。もしかして、お見舞いに来てくださったのですか?」
私達の前に現れたのは、ルリアン様・ミミア様・アイリス様・カミラ様だ。
「君たち、勝手にアイリーンの家に乗り込んでくるだなんて!アイリーンは今さっき、目覚めたばかりなんだよ」
彼女たちに近づこうとした私の腕を掴むと、そのままジルバード様に抱き寄せられた。いつも穏やかな顔をしているジルバード様が、なぜか今は怖い顔をして彼女たちを睨んでいる。
「ジルバード様、その様な言い方は…」
「ジルバード殿下、こんにちは。勝手に乗り込んでくるだなんて、人聞きの悪い事を言わないで下さい」
「そうですわ、私たちはきちんと公爵様に許可を頂きました」
「あなた様が私たちを嫌うのはご自由ですが、アイリーン様にまで強要するのはいかがなものかと」
「確かに私たちは、アイリーン様に酷い事をして参りました。その件に関しては、決して許される事ではありません。ですが…私たちは500年前から、深い絆で結ばれているのです。その事は、ぜひお忘れなく」
にっこり微笑みながら、4人がジルバード様に話しかけている。4人とも笑顔だが、目が笑っていない。
「皆様、落ち着いて下さい。それからカミラ様、私たちの絆は、500年前からではありませんわ。魔王が誕生した、4000年前から強く結ばれているのです。もちろん、ジルバード様も」
「アイリーン様、それは一体どういうことですか?」
「私は意識を失っている間、私の魂の中にいる人たちとお話をしていたのです。その時、魔王が誕生するきっかけになった時の話を聞きました。
どうやら魔王は、元々人間だったのです。嫉妬と憎悪を抱いた人間が闇の魔力を持つ者の力を借り、魔王が誕生したのです。そしてその闇の一族を魔王に紹介した人物こそ、クレスロン男爵…当時は侯爵だった様ですが…
魔王が誕生したのは4000年前ですが、もしかしたら今でもクレスロン男爵家は、闇の一族と関りがあるのかもしれません」




