第7話:私を襲う激痛
次から次へと頭の中に流れてくる言葉と映像。この記憶は…
「ジャンティーヌ…」
ポツリと呟いた時だった。
「アイリーン嬢!!!」
声の方を振り向くと、血相を変えたジルバード殿下が、バシャバシャと海に入りながらこちらへと向かっている。
「アイリーン嬢!君は一体何を…」
ジルバード殿下が私の肩を掴んだ瞬間、頭が割れる様な激痛に襲われ、その場に倒れそうになった。
「うぅぅ…痛い…頭が…割れる様に…」
あまりの痛さに、うめき声が漏れる。痛い!痛すぎる!この痛みは何なの?
「アイリーン嬢、どうしたのだい?頭が割れる様に痛いとは…なんて熱さだ。大変だ!」
私を抱きかかえたジルバード殿下が、そのまま海から出ていく。頭痛は増々酷くなる。それどころか、体中の激痛に加え、燃えるように熱いのだ。
私、死ぬのかしら?
そう思った瞬間、涙が込み上げてきた。怖い、死にたくない。お願い、助けて!
さっきまで自ら命を絶とうとしていたのに、想像を絶する痛みに、死への恐怖を感じるだなんて…
「アイリーン嬢、しっかりしてくれ」
「お嬢様!それにジルバード殿下も。一体どうされたのですか?お2人ともずぶ濡れですが。まさかお嬢様…」
「君たち、アイリーン嬢は酷い熱が出ている様だ。体中が燃えるように熱い。その上、酷い頭痛に襲われている。すぐに医者の手配を!俺も一緒に、公爵家に向かう。とにかくいそいでくれ」
「承知いたしました。お嬢様、しっかりしてください」
目に涙を浮かべている使用人たち。相変わらず優しい彼女たちの顔を見たら、再び涙が込みあげる。
ただ、尚も激しい痛みに襲われ続ける。皆に心配をかけたくなくて、必死に笑顔を作ろうとしているのだが、痛すぎてついうめき声が上がってしまうのだ。
そのせいで、使用人もジルバード殿下も心配そうな顔をしている。さらに使用人やジルバード殿下が、私に必死に治癒魔法をかけているのだ。私は、どれだけの人に迷惑をかければ気が済むのだろう。
「くそ、どうして治癒魔法が効かないのだ!こんなに苦しんでいるのに。少しでも症状が和らいでくれたらいいのだが」
「皆様…私の為に…ありがとうございます…ですが私は…大丈夫なので…どうかもう…貴重な治癒魔法を…私に使うのは…お止めください」
それでも必死に震える声で訴える。どうかこれ以上、私の事で心を痛めないで。
「アイリーン嬢、もう話さない方がいい。相当辛いのだろう。ここまで治癒魔法が効かないだなんて。とにかくすぐに医者に診せないと」
医者に診せても無駄だろう。医者の力をもってしても、きっとこの痛みから解放される事はない。なぜだかそんな気がしたのだ。
「アイリーン、それにジルバード殿下も。一体何があったのですか?アイリーン、しっかりして」
「アイリーン!何てことだ。どうしてアイリーンがこんな目に…」
屋敷に着くと、お母様とお兄様が駆けつけてくれたのだ。お母様、また泣いているわ。私のせいで。どれほどお母様を泣かせたら気が済むのかしら?
すぐに部屋に運ばれ、医者の治療を受ける。
ただ…
「なんて酷い熱だ。まるで体が燃えている様だ。体中に伴う激痛もある様ですね。この様な病気は、初めてです。すぐに精密検査を行いましょう」
お医者様が慌ただしく動き出した。お母様もお兄様もジルバード様も、不安そうな顔をしている。
精密検査をしても無駄だろう。たとえ原因が分かったところで、治せる方法などないのだから。
「ジルバード殿下…私の事は…気にせず…お帰り下さい…あなた様は…お忙しい…方なのですから」
私の為に、これ以上付き合ってもらう必要はない。彼にこれ以上負担をかけたくはないのだ。




