第61話:そんな…~ジルバード視点~
屋敷に着くと、公爵家の使用人たちが飛んできた。
「お嬢様…なんてお姿に…」
アイリーン専属の使用人たちが、涙を流しながらこちらにやって来たのだ。他の使用人たちも、今にも泣きそうな顔をしている。
「お坊ちゃま、それにジルバード殿下、よくぞご無事で。それで、アイリーンお嬢様は…」
言いにくそうに、公爵家の執事がグリム殿に話しかける。
「アイリーンは生きているよ。ただ、魔王を消滅させるために、全魔力を解放してしまったんだ。とはいえ、皆のお陰で心臓は動いているよ。今すぐ医師を呼んでくれ!」
「それではアイリーンお嬢様は!既に医師は待機させております。どうぞこちらへ」
グリム殿の言葉を聞いた使用人たちの顔から、笑みがこぼれた。そしてアイリーンの部屋へと彼女を連れていく。その間に公爵たちも屋敷に戻ってきたため、4人でアイリーンの診察の様子を見守った。
「これは…魔力がかなり欠乏しております。どうしてこの状況で、心臓が動いているのか不思議なくらいです!一体何がおこっているのだ?とにかく、魔力を注ぎ込む治療を行いましょう。それから、魔力の生成を助ける薬も投与しないと」
アイリーンの診察を行った医師たちが、血相を変えて治療を始め出したのだ。
「おい、急に焦り出してどうしたのだ?我々にもわかるように説明してくれ。アイリーンは今、どういう状況なのだ?」
「取り乱してしまい、申し訳ございません、旦那様。結論から申し上げますと、アイリーンお嬢様の魔力量は今、ほぼゼロに近い状態です。本来我々魔力持ちは、己の持つ魔力量が5%を切った時点で、命を落としてしまうのです。
魔力こそ、我々の生命力ですから。それなのにお嬢様は、致死量の5%を切った今でもなお、生き続けていらっしゃる。これは奇跡なのです。ただ、この状況が長く続くのは、非常に危険です。いつ心臓が止まってしまってもおかしくはない。
とにかく一刻も早く、お嬢様の魔力を増やす必要があるのです。その為の治療を、今から行います」
「なんと!それじゃあアイリーンが今生きていること自体、奇跡なのか?」
「はい、そうでございます。ただ、この奇跡はいつまで続くか。とにかく、一刻も早く治療を!」
「わかった、話し掛けてすまなかった。すぐに治療を行ってくれ」
「承知いたしました」
どうやら医師の話では、アイリーンが今生きていることが奇跡だった様だ。よく考えてみれば、治癒魔法は確かに怪我を治すことはできるが、魔力まで回復させることはできない。
もしかしたら俺たちの強い思いが、アイリーンの心臓を動かしたのかもしれない。もしそんな奇跡があるなら、どうかこのままアイリーンの意識も戻って欲しい。
アイリーンの手をギュッと握り、祈りをささげる。
その間も、魔力を復活させる治療がどんどん行われていく。大丈夫だ、きっと大丈夫。
ただ…
「なぜだ?どうしてお嬢様の魔力量が増えないのだ?」
「私共にもわかりません。通常生きた人間であれば、この治療法で魔力が回復していきます。というよりも、少しずつですが本来自力で魔力量は回復していくはずなのですが、お嬢様の場合、魔力量1%から、全く増えておりません。
まるで既に命を落としているかのように…」
命を落としているだって?
ビックリしてアイリーンの胸元に耳を当てた。
「適当な事を言うな!アイリーンの心臓は動いているぞ。それなのに!君たちでは埒があかない!今すぐ王宮医師たちを手配してくれ!一刻の猶予もない。急いでくれ」
「承知いたしました!」
近くに控えていた執事に指示を出した。大丈夫だ、きっとアイリーンは助かる。大丈夫だ、そう自分に言い聞かせながら。
だが…
「ジルバード殿下、やはりアイリーン様の魔力は全く回復しません。もしかすると、心臓だけは動いているけれど、実際アイリーン様のお命はもう…」
「黙れ!そんなはずはない!だってアイリーンの心臓は、動いているではないか?」
「我々もこの様な事例は初めてで、はっきりとは言えませんが…既にアイリーン様の命は尽き果てている中で、何らかの理由で心臓だけが今動いているのかもしれません。ですが、魔力がほとんどない今、その心臓もいつ止まるか…」
「それではもう、アイリーンは助かる見込みがないという事か?そんな…」
「そんな!アイリーン、嫌よ!目を覚まして!お願い、アイリーン」
「アイリーン、目を覚ますんだ!頼む、私の持つ魔力をすべて使っても構わない。だからど
うかアイリーンを助けてくれ」
「旦那様、落ち着いて下さい。魔力を他人に与える事は、できないのです。私共に出来る事は、もう何も…」
悔しそうに唇を噛む医者たち。
もうどうする事も出来ないのか?このまま俺はまた、アイリーンを失うのか?
500年前の苦しみを、また今世でも味わうのか?どうしてこんな事になってしまったんだ。
今度こそ彼女を守ると誓ったのに…
俺は一体どうすればいいんだ…
次回、アイリーン視点です。
よろしくお願いします。




