第60話:なぜこんなに不安なのだろう~ジルバード視点~
今アイリーンと離れてはダメだ!きっと後悔する。
なぜかわからないが、漠然とした不安が、俺の心を支配していた。どうしてこんなに不安なのだろう。確かにアイリーンの意識は、まだ戻っていない。だが、しっかり心臓は動いているのだ。500年前とは違うのに…
「ジルバード、あなたは何を言っているの?あなただって、魔王との戦いで相当疲れているのよ。王宮でしっかり休まないと」
「そうだぞ、それにアイリーン嬢はまだ、お前の婚約者ではない!それにきっと、アイリーン嬢は大丈夫だ。さあ、一緒に王宮に戻ろう」
父上と母上が、俺とアイリーンを引き離そうとしてきたのだ。必死にアイリーンを抱きしめた。
「陛下、王妃殿下、どうかジルバード殿下のお気持ちを、尊重してあげてくださいませ」
「私からも、お願いいたします。きっと何か、思うところがあるのでしょう」
「私も正直、アイリーン様の事は不安なのです…本当なら私たちもアイリーン様のお傍にいたいのですが…生憎体力の限界でして…」
「どうか…アイリーン様のお傍に…いさせてあげて差し上げて下さい…お願いします…」
俺たちの間に入って来たのは、ルリアン嬢・ミミア嬢・アイリス嬢・カミラ嬢だ。ルリアン嬢は、どうやら意識が戻った様だ。とはいえ、自力で歩く事は出来ない様で、家族に抱きかかえられている。そんな状況で、俺の為に必死に訴えてくれているのだ。
「君たち、ありがとう。君たちもアイリーンが心配だろう。俺が責任を持って、アイリーンの面倒を見るから」
「「「「はい、殿下にお任せいたしますわ」」」」
そう言ってほほ笑んだ令嬢4人。
元々アイリーンを虐めていた4人の事を快く思っていなかったアイリーンの両親は、眉間にしわを寄せて怪訝そうな顔をしている。
「父上、母上、彼女たちは今回の戦いで、アイリーンを精神的にも肉体的にも支え続けてくれたのです。彼女たちなくして、アイリーンは魔王に勝つ事は出来ませんでした。ルリアン嬢を筆頭に、命を落としかけたアイリーンを、命がけで治癒魔法をかけて助けてくれたのも、彼女たち4人です。
アイリーンにとって彼女たちは、500年前の戦いからずっと支え続けてくれた、かけがえのない子たちなのです。
君たち、いつもアイリーンを支えてくれてありがとう。アイリーンはきっとすぐに意識を取り戻すよ。この世界には、アイリーンの事を大切に思ってくれているかけがえのない人たちが沢山いる事を、アイリーン自身も知っているだろうからね。どうか君たちも、ゆっくり休んでくれ。
それじゃあ、俺たちもこれで失礼します。陛下、王妃殿下、ジルバード殿下を少しお借りいたしますね」
そう言うとグリム殿が、俺の背中を押し、そのまま馬車へと誘導してくれたのだ。そのままグリム殿も乗り込んだ。
「ありがとうございます、グリム殿」
「お礼を言うのは、こちらの方です。アイリーンを大切に思って下さり、ありがとうございます。実は俺も…アイリーンが最後に言ったセリフが気になっていて…アイリーンは間違いなく今世を諦め、自分の持つ全ての魔力をぶつけ、魔王を消滅させたのです。
彼女たちのお陰で、一命は取り留めましたが、このまま意識が戻らないのではないかと心配で…俺の考えすぎかもしれませんが、なぜか胸騒ぎがするのです」
グリム殿も、俺と同じように不安を抱いていたのか…
「とにかく屋敷に戻ったら、一度アイリーンを医者に診せましょう。何かわかるかもしれませんし」
「ええ、そうですね…」
ふと窓の外を見ると、既にあちこちで壊れた建物の修復作業が行われていた。王都でも魔物たちとの激しい戦いが行われていたのだろう。それを物語るかのように、あちこちが破壊されていた。それでも500年前に比べると、被害は少ない様に見える。
それもこれも、短期間で魔王を倒せたことが大きいのだろう。
アイリーン…
腕の中で眠るアイリーンを見つめた。固く閉ざされた瞳を見ていると、500年前の事を思い出す。あの時、俺は泣きながらジャンティーヌの亡骸を抱きしめながら、王都に戻ってきた。
あの時のジャンティーヌは、酷い怪我をしていたうえ、体も既に冷たくなっていた。今のアイリーンとは違う。分かっているのだが、あの時のジャンティーヌと今のアイリーンの姿が、なぜか重なってしまうのだ。
大丈夫だ、アイリーンはまだ生きている。現に温もりだって感じられるのだから。




