第59話:王都に戻ってきました~ジルバード視点~
「皆様、ご無事だったのですね…アイリーン様…」
外で待っていた騎士たちが、嬉しそうに駆け寄って来たのだが、アイリーンの姿を見た瞬間、口を押えて固まってしまった。
「アイリーンは無事だよ。疲れて眠っているだけだ。魔王はアイリーンによって、消滅したよ」
「アイリーン様が魔王を!それじゃあ、もう魔王が復活する事はないという事ですか?」
「ああ、そうだ。もう魔王が復活する事はないよ。本当の意味で、平和を手に入れたんだ」
俺の言葉で、兵士たちが歓喜の声をあげた。もう二度と、魔王に怯える生活を送る必要はない。もう二度と、魔族への恐怖や絶望を感じる事はない。
ただ…
ぐったりと眠るアイリーンを見ていると、不安でたまらないのだ。確かに心臓は動いている、でも、本当にアイリーンは助かったのだろうか…
あの時アイリーンは、間違いなく今世を捨て、来世での平和な暮らしを選んだのだ。
「ジルバード団長、よく頑張りましたね。それから君たちも、前世からずっとアイリーンを支えてくれてありがとう。君たちがいなかったらきっと、アイリーンは魔王を倒すことが出来なかっただろう。ルリアン嬢、君も魔力を使い果たしている中、すぐにアイリーンに治癒魔法をかけてくれてありがとう。
君のお陰で、アイリーンは息を吹き返したよ」
「感謝を述べるべきは、私共ですわ。アイリーン様がいらしたから、魔王を倒すことが出来たのです。アイリーン様のお陰でもう、魔王に怯える事もないのです。それがどれほど素晴らしい事か…」
「ルリアン様!しっかりなさってください」
既にルリアン嬢も限界を迎えていたのだろう。そう呟くと、そのまま意識を飛ばしてしまったのだ。他の3人も、相当疲労がたまっている事だろう。
「ルリアン嬢、大丈夫かい?彼女は俺が運ぼう。皆も魔王との戦いで、相当疲れているだろう。さあ、王都に戻ろう」
既に準備されていた魔法陣を使い、王都へと戻っていく。俺もアイリーンを抱きかかえ、魔法陣をくぐると…
「ジルバード殿下とアイリーン様が戻っていらしたぞ!」
そこにはたくさんの貴族や平民たちが、歓喜の声を上げていたのだ。
「ジルバード、おかえりなさい」
「アイリーン!もしかして…」
父上と母上、アイリーンの両親が駆け寄ってきた。ただ、ぐったりとしているアイリーンを見て、マクレス公爵夫妻の表情が一気に硬くなる。
「マクレス公爵、夫人、アイリーンは生きております。ただ、魔王を消滅させるために、無理をしたせいで…」
「魔王が消滅しただって!それじゃあ…」
「ええ、魔王はもうこの世にはいません。魔王の封印に成功した後、アイリーンは自らの命を犠牲にする覚悟で、残っていた魔力を全て眠る魔王にぶつけ、消滅させたのです。
未来の人々が、もう二度と魔王に怯える日々を送らずに済む様にと」
アイリーンは本当にすごい子だ。既に魔王を封印した時のアイリーンは魔力を使い果たし、フラフラだったはずなのに…それなのに、アイリーンは…
「魔王はもうこの世にいないだって!何てことだ…やはりアイリーン様は、英雄だったんだ」
「いいや、英雄だなんて言葉では、失礼だろう。神様、いいや、女神様だ!」
「もう二度と、魔王に怯える日々を過ごさなくていい。孫たちもその孫たちも皆だ!」
再び大きな歓声が沸き上がる。
「アイリーン、あなたって子は…」
「ジルバード殿下、アイリーンを連れて帰って来てくださり、ありがとうございます。アイリーンは屋敷で休ませますので、我々はこれで。グリム、君も相当疲れているだろう。さあ、我が家に帰ろう」
公爵と夫人が俺に頭を下げ、そのままアイリーンを俺の腕から連れ出そうとしているのを、そっと阻止した。そして強くアイリーンを抱きしめる。
「マクレス公爵、夫人。俺も一緒に公爵家に連れて行ってください。アイリーンと離れたくはないのです」
「ですが殿下も、相当お疲れでしょう。顔色もあまり良くない。魔力の消費が激しい様です。一度王宮でお休みになってから、改めて屋敷を訪ねて来てはいかがですか?」
「マクレス公爵の言う通りだわ。ジルバード、あなた、とても顔色が悪いわ。アイリーンちゃんが心配なのはわかるけれど、一度王宮に戻って休んだ方が…」
「いいえ、俺は王宮に戻りません。今アイリーンと離れては、いけない気がするのです!俺が王宮に戻るのでしたら、アイリーンも王宮に連れていきます」




