第57話:まだ終わっていません
「アイリーン、大丈夫か?しっかりしてくれ、アイリーン!」
「「「「アイリーン様!」」」」
ゆっくり瞼をあげると、そこには私を抱きかかえ、心配そうな顔をしているジルバード様の姿が。さらに後ろには、同じく心配そうな顔をしたルリアン様達4人の姿も。
「私、意識を飛ばしてしまったのね…それで、魔王は」
飛び起きると、魔王の方へと急いで向かう。するとそこには、瞼を閉じた魔王の姿が。既に少しずつ透明の幕に覆われ始めている。きっとこのまま、500年間誰からも攻撃を受けない様に、完全に幕に覆われるのだろう。
「魔王は深い眠りについている様だ。封印に成功したのだよ。さあ、俺たちも早く洞窟から出よう。魔王が完全に眠りにつく前に、洞窟から出ないと危険だ。せっかく魔王を封印できたのに、ここで命を落とす訳にはいかないからな。けが人は皆で協力して運べ。時間がない、急ぐぞ」
完全に魔王が眠りにつくと、強い魔力で洞窟ごと覆われるため、既に魔力の大半を消耗している私たちがここにいる事は、命に関わるほど非常に危険なのだ。
その為、一刻も早くここを離れる必要があるのだが…
「アイリーン、どうしたのだい?もう魔王は封印できたのだよ。君は今回の戦いで、相当魔力を消耗している。一刻も早く、ここから出ないと。ほら、行こう」
私の手を掴んだジルバード様の手を、そっと退けた。
「ジルバード様、それに皆さま、まだ戦いは終わっておりませんわ。このまま魔王が眠りについてしまったら、また500年後、私たちは魔王と戦わなくてはいけないのです。そう、魔王が生きている限り、私たちは永遠に魔王から逃げる事は出来ない」
「アイリーン、君は一体何を言っているのだい?」
「ジルバード様も聞いたでしょう、魔王の言葉を。たとえ今回は魔王を無事封印できたけれど、次はそうもいかないかもしれない。魔王は封印される前、次は絶望のどん底に突き落としてやる、絶対に今日の事を後悔させてやる、そう言っていたでしょう。
私はもう、この負の連鎖を終わらせたいのです。だからこそ、今日で決着を付けたい」
最初から私は、魔王を封印するのではなく、倒そうと考えていた。500年前、ジャンティーヌが魔王にどれほど辛く苦しい思いをしたか。今回だって、犠牲者は少なかったものの、それでも沢山の人が命を落とし、傷つき苦しんだのだ。
そして来世も…
そんな未来、もう私は見たくない。今世の…アイリーンの代で、お終いにしたい。500年後生まれてくる人たちの為にも、第二王子という呪縛に囚われ続けているジルバード様の為にも、そして何よりも、自分自身の為にも。
一歩前に出ると、私たちに誰も近づけない様に、魔王と私の周りにバリア魔法をかけた。
「アイリーン、どうしてバリア魔法を使ったのだい?君は一体何をするつもりなのだい?頼む、やめてくれ!」
「アイリーン様、今のあなた様の魔力で魔王に攻撃を仕掛ける事は、大変危険です!最悪魔王は無傷で、あなた様だけが命を落とすという事になりかねません」
「せっかく助かった命です、来世の事が心配なのはわかりますが、どうか今をお考え下さい」
「来世でもし魔王がまた復活したら、また封印すればいいのですから。ですからどうか、おやめください」
「アイリーン様!どうかお命を大切にしてください。私はあなた様を失いたくはないのです。どうかこのバリアをお外しください」
皆が必死に訴えかけてくる。
「皆様、ごめんなさい。私はどうしても、この負の連鎖を断ち切りたいのです。ルリアン様、ミミア様、アイリス様、カミラ様、どうか令嬢として幸せに暮らしてください。あなた様達の幸せこそ、私の願いです。
そしてジルバード様、あなた様と幸せになるという未来を、生きるというお約束を守れなくてごめんなさい。もしも…もしも叶うのなら、来世でまた私を愛してくださると嬉しいですわ」
2度もジルバード様を傷つけてしまう結果になってしまった事、本当に申し訳なく思っている。それでも私は、どうしても未来を、来世を守りたいのだ!だからこそこの男を…
眠る魔王の方を見つめる。
「頼む、アイリーン!止めてくれ!もう二度と君を失いたくはないんだ」
「「「「アイリーン様」」」」
綺麗なドレスに身を包み、令嬢として好きな殿方と一緒にダンスを踊る。美味しいお菓子を食べ、友人たちと話に花を咲かせる。魔王に怯えることなく、令嬢として当たり前にある生活。そんな生活を、私は今度こそ送りたい。
私の中に眠る魔力よ、お願い!私に力を貸して!全ての魔力よ、目を覚ませて!
その瞬間、全身から魔力が沸き上がる。
なんだ、まだまだ魔力が残っているじゃない。さっきとは比べ物にならない程の魔力が。きっとこれで、全てが終わる。
やっとこれで、魔王に怯える事のない世界を作れる。私達の宿命もこれでお終い。さようなら、魔王。もう二度と、現れる事がありませんように。
そう願いを込めて、ありったけの魔力を魔王にぶつけたのだった。
次回、ジルバード視点です。
よろしくお願いします。




