第54話:もう誰も失いたくはないのに…
「アイリーンの言う通りだ。魔王はこうやって奇襲を仕掛けてくる卑怯者だ。そんな卑怯者に、俺たちは絶対に負けない。おい、魔王、俺も全てを思い出した。500年前、お前が初めて姿を現したあの日。
俺の妹を一番に狙ったよな!あの場で俺はお前にやられてしまった。そのせいで妹は、俺の意思を継ぎ、お前と戦う事になったんだ。今日こそあの時の無念を、晴らさせてもらうぞ」
「お兄様!!」
お兄様とジルバード様が、私に加勢する。少しずつ魔王が押され初めてきた。これはいけるかもしれない。
「私共も、この洞窟に来て思い出しました。私の心の弱さのせいで、あの時は魔王に操られてしまい申し訳ございません。今度は絶対に、魔王の思う様にはさせません」
「「「「私たちもです」」」」」
「皆様…」
どうやらこの洞窟に来てから、皆の前世の時の記憶が戻り始めている様だ。ただ、その瞬間、ものすごい数の魔物たちが襲い掛かって来たのだ。
「魔物たちが来たぞ。500年前よりも数が多くないか?」
「落ち着け、弱音を吐くな!大丈夫だ、俺たちならきっと倒せる」
一気に指揮が高まる。
「アイリーン、君のお陰で、兵士たちの士気も上がった様だ。それにカミラ嬢も無事治療を受けられた様だよ。大丈夫だ、今回はきっと、被害を最小限に抑えられるよ」
そう言ってほほ笑んだジルバード様。
確かにジルバード様のおっしゃった通り、恐ろしいほど順調だ。魔王との戦いが始まっているにもかかわらず、被害も最小限に抑えられている。
でも…
なぜかニヤニヤ笑っている魔王、そもそもどうしてこの男は、わざわざ皆の記憶を呼び起こしたの?500年前の恐怖を思い出せば、また逃げ出すとでも思ったの?
それに明らかに劣勢になっているのに、どうして魔王は笑っているの?魔王の魔力って、この程度だったかしら?
一体何を企んでいるの?
「アイリーンと言ったな。どうして本気を出さないんだ?その程度で俺に勝てると思っているのか?今のお前と戦っていても、面白くないな。やはり絶望と恐怖を味わわないと力が出ないのか?それじゃあこれでどうかな?」
次の瞬間、隣で戦っていたお兄様が、一気に吹き飛ばされていったのだ。さらにあちこちからも悲鳴が聞こえる。
「お兄様!!」
吹き飛ばされたお兄様は、その場から動かない。
そんな…
あの時と一緒だ…
あの時もこうやって私の大切な人たちが、魔王に攻撃されて…
いやだ、またあの時の様になってしまうの?私はまた、大切な人を守れないの?
こうやってまた私は、一人、また一人と大切な人を失くしていくの?そんなの、嫌よ!
これ以上あの男の思い通りになんてさせない!
怒りに身を任せて、一気に魔力を放出する。
「アイリーン、そんな風に魔力を暴走させてはダメだ!きっとグリム殿は大丈夫だ。落ち着いてくれ」
「ジルバード様、私は怖いのです。また500年前の様に、沢山の大切な人達を、目の前で失うかもしれないと思うと。だからこそ、早くこの男を倒さないと」
そうよ、もっともっと力を出さないと!さらに魔力を強める。
でも…
「少しは本気を出してきた様だな。でも、この程度では俺には勝てないぞ。そうだな、次は…」
真っすぐ魔王がジルバード様を見つめたのだ。
「ふざけないで!これ以上私の大切な人を、傷つけさせたりはしないのだから!」
さらに怒りから思いっきり魔力を魔王にぶつける。絶対にこの男だけは許せない。早く、早くこの男を倒さないと!早く!
「アイリーン、お前はいつからそんなに愚かな女になったんだ。これは俺の勝ちだな。さっさと死ね!」
「きゃぁぁぁ」




