第4話:家族にまで迷惑をかけています
「お嬢様、そのお怪我、どうされたのですか?また誰かから暴力を。すぐに治癒魔法をお掛けいたしますね」
なんとか馬車のところまで行くと、使用人が飛んできて治癒魔法をかけてくれた。私は簡単な治癒魔法すら使う事が出来ないのだ。きっと彼女も、呆れているだろう。
「傷を治してくれてありがとう。ごめんなさい、治癒魔法は体に負担がかかるのに。私なんかの為に…」
「なんて事をおっしゃるのですか!お嬢様は私の大切な主でございます。さあ、どうぞ馬車にお乗りください」
優しい使用人が、馬車に乗せてくれた。使用人の優しさが、身に染みる。きっと彼女も、もっと強くて立派な人間のお世話をしたかっただろう。レア様の様に…
己の不甲斐なさに、涙が溢れだす。でも、これ以上泣く訳にはいかない。窓を見ると、我が家が見えてきたのだ。
必死に涙をぬぐった。
「おかえりなさい、アイリーン。あなた、また制服が汚れているわ。もしかして、学院で虐められているのではなくって?」
不安そうな顔のお母様が、私に駆け寄って来たのだ。
「ちょっと転んでしまっただけですわ。本当にドジで嫌になります」
「そう…それならいいのだけれど…あのね、アイリーン。実は大切な話があって。今お父様が、居間で待っているの」
お母様が言いにくそうにそう言ったのだ。
「まさか、魔王が復活したのですか?」
「いいえ、そうではないの…とにかく、行きましょう」
悲しそうに笑ったお母様と一緒に、お父様の待つ居間へと向かった。きっといい話ではないのだろう。
居間に着くと、お父様とお兄様が神妙な顔つきで待っていた。でも、私を見た瞬間、すぐに笑顔を作る2人。その姿が、なんだか胸に突き刺さる。
「アイリーン、お帰り。学院は大丈夫だったかい?酷い事を言うやつらも多いだろう。無理をして行く必要はないのだよ」
「ただいま戻りました、お父様。ご心配をおかけして、申し訳ございません。私は大丈夫ですわ。それで、お話しとは何ですか?」
きっと良くない話なのだろう。両親はもちろん、お兄様も辛そうな顔をしている。
「私は大丈夫ですので、話してください」
「アイリーン、実は陛下からアイリーンとレドルフ殿下の婚約を、解消したいとの申し出があってね。アイリーンは魔力量がほとんどないし、このまま王妃になっても、君も辛いだけだろうからと…それでその、新たな婚約者には…」
お父様が非常に言いにくそうにしている。
「そうですか。私には魔力がありませんので、その方がよいかと。レドルフ殿下の婚約者には、伝説の英雄の生まれ変わり、レア様がなられるのですよね。お2人は学院内でも、非常に仲睦まじいので。
正直私には、王妃は荷が重いと感じていたのです。婚約を解消して頂けるのなら、その方が有難いですわ」
私の事を毛嫌いしているレドルフ殿下とこのまま結婚しても、辛いだけだ。それに何よりも、私はレドルフ殿下が苦手なのだ。婚約解消をしてもらえるなら、ぜひそうして欲しい。
「アイリーン、我が国で婚約を解消するという事は、どういう事か分かっているのかい?もう二度と、この国では結婚できないかもしれないのだよ」
お父様が真剣な表情で、訴えかけてきた。我が国ではよほどのことがない限り、婚約を解消しない。一度解消すると、難ありだと思われ、次の相手が中々決まらないのだ。とはいえ、私の場合は既に貴族世界から嫌われているし、どのみち幸せな結婚なんて諦めている。
この国にいる限り、私が幸せになる事はない。
私だけではない、私が無能なばかりに、両親はもちろん、お兄様にまで肩身の狭い思いをさせて来たのだ。私のせいで、どれほど両親やお兄様たちが傷つき苦しんできたか…
それが私には、一番辛い。それでも私を見捨てず、大切にしてくれる家族が、私の唯一の宝物なのだ。




