第30話:貴族令嬢として
屋敷に着くと、使用人たちが飛んできた。
「お嬢様、一体どうされたのですか?その格好は…」
「ちょっと色々とあってね。せっかくのドレスが、汚れてしまったわ。着替えさせてもらえるかしら?」
「ええ、もちろんですわ」
汚れてしまった体を洗ってもらい、再びドレスに着替えさせてもらった。着替えが終わると、その足で中庭へと向かい、ティータイムだ。
「お茶が美味しわね。このお菓子も美味しいわ。運動した後のお茶とお菓子は、絶品ね」
こうやってお庭で大好きなお菓子とお茶を頂く。この時間が、私にとって憩いの時間なのだ。
このまま穏やかな時間を過ごしたい、そう思っていたのだが、そううまくはいかないもので…
「アイリーン、こんなところで呑気にお茶を飲んで!どうしてあの場所に来たのだい?どうやって今日の事を知ったのだい?」
「既に貴族たちが、図々しくもアイリーンに期待をし始めているよ。君に謝りたいと、何度も言って来ているよ。このままでは、またアイリーンは…」
「アイリーンの事は、このまま黙っておくつもりだったのに。だから使用人たちにも、絶対に外に出すなと伝えておいたのに。それなのに…」
「使用人たちのせいではありませんわ。彼らはただ、主でもある私のお願いを聞いただけですから。お父様もお兄様もジルバード殿下も、そんな怖いお顔をしていないで、こちらでお茶を飲んだらいかがですか?
魔王は1日の猶予を与えてくれたのですから…本当に、美味しいお菓子だ事」
「「「アイリーン(嬢)!!!」」」
3人の声が重なった。お父様とお兄様、さらにジルバード殿下は、いつからこんなに仲良しになったのかしら?
その時だった。
「お取込み中失礼いたします。今王宮から使者が来まして。その…アイリーンお嬢様を連れて、王宮に来て欲しいとの連絡が来ております」
お父様付きの執事が、言いにくそうに呟いたのだ。
「早速動き出したか。そんな使い、無視しろ。たとえ我が家が罰せられようと、私たちはアイリーンを差し出すつもりはない!我が家に向かってくる奴らがいたら、全面的に叩き潰すまでだ!」
お父様が声を荒げている。
「お父様、何を物騒な事をおっしゃっているのですか?今人間同士で仲たがいしてどうするのですか?明日には、魔王が襲ってくるというのに。王宮に向かえばいいのね。それでは、行きましょうか。既に着替えは済んでおります。
どうですか?このドレス、とても素敵でしょう?」
クルリと回ってドレスを見せたのだ。
「アイリーン嬢、君は一体何を考えているのだい?王宮になんて、行く必要はない。あいつらは、君を利用する事しか考えていないんだ」
「そうかもしれませんね。ですが、私はこの国の公爵令嬢です。陛下に呼ばれたら、行く義務があるでしょう。さあ、お父様、参りましょう」
にっこりとほほ笑み、歩き出す。
「待ちなさい、アイリーン」
お父様も慌ててついてくる。その後ろからはお兄様やジルバード殿下も。さらにお母様も心配そうに、私たちの後を付いてくるではないか。
急ぎ足で馬車に乗り込むと、皆も乗り込んできたのだ。
「アイリーン、どうして王宮に向かうの?あなた、さっき言っていたじゃない。もう茶番には巻き込まれたくないと!」
「ええ、言いましたわ。でも、逃げていても問題は解決しませんでしょう。だから私は、王宮に向かうのです。公爵令嬢としてのプライドと誇りを持って、陛下に会うつもりでおりますわ」
真っすぐお母様を見つめ、はっきりとそう告げた。




