第23話:溢れそうになる気持ち~ジルバード視点
複雑な思いを抱きながら、アイリーン嬢の元へと向かった。
「ジルバード殿下、よくいらっしゃいました。アイリーンは今、稽古場におりまして…あの子の魔力は相当の様で、ここ最近、ずっと稽古場にこもっているのです。もしかして、魔王との戦いに向けて、準備をしているのではないかと不安で…」
「そうですか。ですが、彼女を魔王と戦わせるつもりはありません。アイリーン嬢がジャンティーヌの生まれ変わりで、膨大な魔力を宿した事は、俺たち以外誰も知らないのです。
このまま屋敷にいれば、きっと何も知らずに終わるはずです。もし魔王が復活しても、俺が命を懸けて封印しますから」
「ジルバード殿下は、既に覚悟を決めていらっしゃるのですね。アイリーンの為に、ありがとうございます。どうぞ、こちらです」
夫人が、アイリーン嬢のいる稽古場に案内してくれようとした時だった。
「お久しぶりです、ジルバード殿下」
赤いドレスに身を包んだアイリーン嬢が、俺たちの前に現れたのだ。
「アイリーン嬢、その姿は一体…」
「私は公爵令嬢です。こうやってドレスを身にまとうのは、普通の事ですわ」
穏やかな表情を浮かべているアイリーン嬢。
「ジルバード殿下、お願いがあるのですが、よろしいですか?」
お願い?まさか魔物討伐に参加したいという話ではないよな?一気に緊張が走る。ただ、彼女に気が付かれてはいけない。
「一体なんだろう。俺に聞けることであれば…」
「ありがとうございます。それでは、今からホールで、私と一緒にダンスを踊ってくださいますか?その後、一緒にお茶をして頂きたいのです」
「ダンスにお茶?ああ、構わないけれど…」
アイリーン嬢は、何を言っているのだろう。
「ありがとうございます。それでは、ホールに向かいましょう」
嬉しそうに笑ったアイリーン嬢と一緒に、ホールへと向かう。大きなホールの真ん中に向かうと、音楽が流れだす。そして2人で、音楽に合わせて踊り出した。
「ジルバード殿下、覚えていらっしゃいますか?私のデビュータントの日、1人たたずむ私に声をかけて下さり、こうやってダンスを踊って下さったあの日の事を」
「ああ、覚えているよ。あの時の君は、本当に美して…いいや、何でもない」
「ジルバード殿下があの日、私と踊って下さったお陰で、あの日の思い出は最悪な日から最高の日になりましたわ。ずっとお礼が言いたかったのです。ありがとうございます」
そう言うと、嬉しそうに微笑んだアイリーン嬢。
「お礼を言うのは俺の方だ。君のファーストダンスを、俺がもらえたのだから。アイリーン嬢、知っているかい?あの日俺にとっても、ファーストダンスだったのだよ」
「まあ、そうだったのですか?あなた様のファーストダンスを奪う事になってしまい、申し訳ございませんでした」
「どうして謝るのだい?俺は君がファーストダンスの相手で、とても嬉しく思っているよ。今日こうやって君と踊れた事も、本当に幸せな事だ。ここにきて、こんな風に君とダンスを踊れるだなんて、もう思い残すこともないよ」
つい本音が漏れてしまう。でも、それほどまでに、今の時間は俺にとって幸せな時間なのだ。
「まるで今から、命を落としに行くような言い方ですね…私も今日、ジルバード殿下とダンスを踊れて、本当に幸せですわ。私はずっと、令嬢なら当たり前の事をしていきたいと思っていたのです。今日夢が叶いましたわ」
「アイリーン嬢…」
「ジルバード殿下とのダンス、とても踊りやすいですわ。実は私、ダンスは苦手なのです。何度練習しても、相手の足を踏んでしまうのです」
「そうなのかい?そんな風には見えないな。アイリーン嬢のダンス、とても上手だよ」
「ありがとうございます。きっと相手が、あなた様だからかもしれませんね」
そう言うと、少し頬を赤らめたアイリーン嬢。もしかしてアイリーン嬢も、俺の事を?




