第22話:時間が許す限りアイリーン嬢に会いたい~ジルバード視点~
「お前たち、気を引き締めろ。この程度の魔物たちに、てこずってどうする。魔王が誕生したら、もっともっと魔物が増えるし、何よりも魔王は恐ろしいほど強いんだぞ」
「はい、団長」
ジャンティーヌ嬢が倒れてから、既に1ヶ月以上が経過した。この1ヶ月の間、少しずつ魔物たちは増えて来て、時には街を襲うという状況にまでなって来たのだ。
いよいよ、魔王の復活が近づいてきている。俺も正式に魔物討伐部隊を率いるよう、父上から任命も受けた。魔王との決戦の準備をしながら、日々魔物たちと戦っている。
とはいえ、魔物たちは恐ろしく強いのだ。騎士団員たちの中には、既に死者も出始めている。まだ魔王が復活していないのに、このありさまでは、もし魔王が誕生したら、本当に俺たちは魔王に勝てるのか?
そんな不安が、俺を襲う。
ダメだ!俺がアイリーン嬢を守ると決めたのだから。こんなところでへこたれている訳にはいかない。
そんな思いで、必死に魔物たちを倒していく。魔物討伐部隊の中には、アイリーン嬢の兄、グリム殿も参加してくれている。さすが英雄ジャンティーヌの血を引いているグリム殿とあって、非常に強く、俺たちにとっても心強い存在だ。
「団長、何とか魔物たちも倒し終わりましたね。今日はいつもより早く戻れそうです」
「そうですね、それもこれも、副団長でもあるグリム殿のお陰です。それで、アイリーン嬢は…」
ジャンティーヌの記憶を取り戻したアイリーン嬢が、いつ今の事態に気づき、討伐に参加すると言い出すか気が気ではないのだ。
「ええ、元気にしておりますよ。ただ、色々と思う事もある様で…でもこのままいけば、アイリーンに気が付かれる前に、魔王を倒せるかもしれない。俺もアイリーンには、絶対に討伐には参加して欲しくはないので…
ただ…」
「ただ、どうされたのですか?」
「どうやらアイリーンは、魔力量が非常に多い様で、2週間前から無心になって公爵家の武道場で魔力を放出しています。本人は魔力を放出すると、体が楽になるからと言っていて。
医者も膨大な魔力を抱え続けると体にも負担になるから、少し放出した方がいいとは言っているのですが。俺も両親も、なんだか不安で…」
「確かにそれは不安ですね。ですが、まだアイリーン嬢には、魔物たちが増え始めている事は、知られていないのですよね」
「ええ、知らないはずです。ただ、あの子はジャンティーヌの記憶も持っておりますので、何か感じ取っているのかもしれません。とはいえ、もし感じ取っているのなら、既に我々に話して来てもいいと思うのです。
きっとすぐにでも、最前線で戦いたいと考えているでしょうから…でも俺は、もうアイリーンを振り回したくはないのです。あの子はずっと、英雄ジャンティーヌに振り回されてきたので」
「それは俺も一緒です。とにかく、このままアイリーン嬢が気付かないまま、戦いを終わらせましょう」
「ええ、その為にも、ここでてこずっている訳にはいきません。気を引き締めて行きましょう」
アイリーン嬢には、絶対に今回の戦いに参加させたくはない。その為にも、俺たちが頑張らないと。
この日も俺は、アイリーン嬢に会いに行く。最近中々アイリーン嬢に会えていないのだ。あとどれくらい、アイリーン嬢に会えるのだろう。いつ命を落としてもおかしくはない状況なのだ。
1分でも長く、アイリーン嬢に会いたい。前世の記憶を取り戻したアイリーン嬢にとって、俺に会うのは苦痛かもしれない。俺は500年前の第二王子、ギルドに瓜二つだ。俺を見ると、嫌でも魔王との戦いを思い出すだろう。
現にアイリーン嬢の容態が安定した後、家に向かうと、会いたくなさそうな顔をしていた。本来ならもう、そっとしておいてあげるべきだろう。
それでも俺は、アイリーン嬢に会いたい。自分勝手だってわかっている。でも、彼女の顔を見ると、力がみなぎるのだ。きっと俺は魔王との戦いで、命を落とすだろう。それならせめて、前世から大好きだった彼女の傍に、少しでもいたいのだ。
命をおとすことが決まっているのなら、せめてそれくらいの我が儘は許して欲しい。




