第21話:ジルバード殿下への想い
悶々とした気持ちのまま、2週間が過ぎた。私の気持ちとは裏腹に、毎日穏やかな時間が流れている。ジャンティーヌが心から憧れた、穏やかな時間。
今その時間を過ごしているのに、心が晴れないのだ。
「お嬢様、お花がとても綺麗ですね。紅茶のお替りはいかがですか?」
「ありがとう、でも、もういいわ。部屋に戻るわね」
そう伝え、部屋に戻ってきた。そして、小さくため息を吐く。
その時だった。
「お嬢様、ジルバード殿下がお見えです」
「ジルバード殿下が?」
ここ最近、ずっといらしていなかったジルバード殿下。きっと私を心配して、様子を見に来てくださったのだろう。でも、今は会いたくはない。
「申し訳ないのだけれど、今は…」
「アイリーン嬢、本当に元気になったのだね。よかった!グリム殿からアイリーン嬢の体調が戻ったと聞いていたのだが、忙しくてなかなか来られなくてごめんね」
私の前に現れたのは、ジルバード殿下だ。
彼の姿を見た瞬間、なんだか妙に懐かしい気持ちになった。そう、彼は前世で私が必死に守った第二王子、ギルド殿下にそっくりなのだ。もしかして彼は、ギルド殿下の生まれ変わりだったりして。
そう思うほど、よく似ている。
「ジルバード殿下、お見舞いに来てくださり、ありがとうございます。お忙しいのに、わざわざ足を運んでいただいた事、感謝いたします。ですが、もう私は元気になりましたので、どうか今日はお引き取り下さい」
あなたの顔を見ていると、どうしても胸が苦しくなるのだ。まだ私には、ジルバード殿下に会う勇気がない。
「アイリーン嬢…顔色も良くなってよかったよ。今日はどうしても君に伝えたい事があってね。先月騎士団内で、誰が一番強いかを争うトーナメント大会があってね。今年も優勝したよ。こう見えて俺は、非常に強いんだよ。もちろん、他の団員たちも、随分力を付けてきている。だからもし魔王が復活したとしても、俺たち騎士団に任せてほしいと思っていてね」
そう言って、笑顔を見せるジルバード殿下。
「殿下、それは一体どういう…」
「殿下、そろそろお時間です」
「ああ、分かっているよ。今日はアイリーン嬢の、元気な顔が見られてよかったよ。それじゃあ、俺は公務があるから。アイリーン嬢、君は今まで散々酷い目に遭って来た。だからこれからは、どうか幸せに生きて欲しいと俺は思っている。それじゃあ、また来るから」
そう言うと、笑顔で去っていくジルバード殿下。
お忙しいのに、わざわざ私の様子を見に来てくださるだなんて。相変わらず、お優しい方ね。わざわざあんな事を言いに来るだなんて…ジルバード殿下は、1人で魔王を倒すつもりなのかもしれない。
あんなに強くて恐ろしい魔王を、ジルバード殿下が1人で…
優しく微笑むジルバード殿下の顔が、脳裏に浮かんだ。
このまま本当に、彼を1人で討伐に行かせてもいいの?役立たずで出来損ないだと言われ、皆から酷い扱いを受けてきた私に、唯一優しくしてくれた人。
“俺が魔王を封印するから、アイリーン嬢は何も心配しなくていいよ”そう言ってくれたジルバード殿下。
そんなお優しいジルバード殿下を、このまま見捨てていいの?
でも、今更私に何が出来るのだろう。莫大な魔力を手に入れて間もない私に…
考えれば考えるほど、答えが出ない。
ジャンティーヌ、私はどうすればいいの?心の中で、何度も何度もジャンティーヌに話しかけた。
そして無意識に、私はある場所へと向かったのだった。
次回、ジルバード視点です。
よろしくお願いします。




