第16話:最悪な事態になってしまった~ジルバード視点~
やって来たのは、公爵だ。
「お言葉ですが公爵殿、アイリーン嬢は既に、3日も高熱にうなされているのですよ。このまま放置しては、アイリーン嬢の命が持ちません。一度王宮医師に診せてみては…」
「ギルド…殿下…大きな声を出して…どうされましたか?…また…怖い夢を…見たのですか?…大丈夫ですよ…私が付いておりますので…」
俺と公爵が、言い争いをしている時だった。
虚ろな瞳で、俺に話しかけてきたアイリーン嬢。今、なんて言った?
「アイリーン嬢、まさかジャンティーヌの時の記憶が、戻ったのかい?そうです、ギルドです。あなたが命がけで守ってくれたギルドですよ。どうか気を確かに」
アイリーン嬢の手を握り、必死に訴えた。するとにっこりとほほ笑み、再び瞳を閉じてうなされだしたのだ。
「…殿下に見られてしまったか…」
ポツリと呟く公爵。
もしかして…
「公爵殿、もしかしてアイリーン嬢は、前世の記憶を取り戻しているのですか?」
「ジルバード殿下、ここでは何です。こちらへどうぞ」
公爵が俺を別室へと案内した。お互い向かい合わせに座ると、公爵が大きなため息をついたのだ。
そして…
「どうやらアイリーンは、ジャンティーヌの生まれかわりの様です。何の拍子かはわかりませんが、今あの子は、ジャンティーヌだった時の記憶を取り戻している様で。そしてあの子が高熱に苦しんでいる原因は、本来アイリーンに宿るはずだった魔力が今、一気に彼女に宿ったため。
もともと魔力量の少なかったアイリーンの体が、膨大な魔力を吸収しきれずに苦しんでいるのです。もしこのままあの子が魔力に適応できなければ、あの子の命は…」
「そんな!どうして今更魔力なんて宿ったのですか?今さら魔力だなんて、宿らない方がよかったのに…どうして…」
何で今頃になって、魔力が宿るんだよ。もうすぐ魔王が復活するこのタイミングで、魔力が宿るだなんて…そんな事…
「殿下は、アイリーンに膨大な魔力が宿る事を、快く思っていらっしゃらないのですか?あの子がジャンティーヌの時の記憶を取り戻したら、もし魔王が復活した時、絶大な戦力になるというのに…」
「俺はアイリーン嬢を、魔王軍と戦わせたくはありません。そもそも、今まで散々アイリーン嬢を迫害していたこの国の為に、どうしてアイリーン嬢が命を懸けて戦わないといけないのですか?
俺が必ず、魔王を封印します。ですからどうか、アイリーン嬢が膨大な魔力を宿した事は、内緒にして頂きたいのです。きっとこの事を知られたら、皆また掌を返し、アイリーン嬢を崇めるでしょう。
これ以上彼女を振り回したくはない。俺は絶対にこの事を口外しません。ですから公爵も、どうか内緒にしてください。お願いします」
これ以上アイリーン嬢を振り回したくない。彼女には、これから令嬢として幸せに生きてほしいのだ。
「ジルバード殿下が、アイリーンの事を気にかけて下さっている事は、何となくわかっておりました。ですが、どうしてそこまでして、アイリーンを守ろうとして下さるのですか?
陛下に聞きました。もし殿下が魔王を封印できた暁には、どうかアイリーンを他国に逃がしてほしいと」
「俺は…アイリーン嬢を愛しているからです。俺と同じように、過酷な運命を背負って生まれたアイリーン嬢の存在を知った時、素直に興味がありました。
そして初めて彼女に会った時、こんなに小さくてかわいい子の肩に、どれほどの重圧がかかっているのだろう。俺が彼女を守りたい!そう強く思ったのです。
一目ぼれというやつですね。あの日から俺は、アイリーン嬢の為に、絶対に魔王と封印すると決めたのです。
そんな中、俺は前世の記憶を取り戻しました。俺は前世は、ジャンティーヌ嬢に守られ、命を救われた第二王子、ギルドだったのですよ。前世の俺は、本当に無力でした。だからこそ、今度こそ俺がアイリーン嬢を守りたいのです」
真っすぐ公爵を見つめて、はっきりと告げた。




