第13話:今度こそ俺の手で…~ジルバード視点~
あの頃の俺は本当に無力で、ジャンティーヌが無残にも命を落とした時も、何もできずにただ泣き叫ぶだけだった。
でも今は…
魔力の訓練を受け続けていたうえ、前世の記憶を取り戻した事で、俺の魔法の技術は格段に上がった。そりゃそうだ、前世では俺は命を落とすその瞬間まで、魔力の稽古を重ねてきたのだから。
あの頃の無念を晴らすために、俺は今この世に存在しているのだろう。今度こそ、俺の手で魔王を封印してみせる。
そしてアイリーン嬢は、間違いなくジャンティーヌの血を受け継いでいる。アイリーン嬢の見た目は、まさにジャンティーヌそのものなのだ。もしかしたら魔力をほとんど持って生まれなかったのは、もう二度と、魔物討伐に参加させたくはないという、マクレス公爵家の先祖の想いがあるのかもしれない。
ジャンティーヌが命を落としたと聞いたマクレス公爵(ジャンティーヌの父)は、人目もはばからず号泣し、そのまま爵位を実の弟(ジャンティーヌの叔父)に譲ると、妻と共に領地に引きこもってしまったのだから。
俺がこのタイミングで前世の記憶を取り戻したのも、何かの意味があるのかもしれない。もしかしたら、前世の俺が“アイリーン嬢を守れ!自分と同じように、後悔しないためにも”そういった、メッセージなのかもしれない。
そんな中、ジャンティーヌの生まれ変わりという、ふざけた女が現れたのだ。俺はその女を一目見た瞬間、全てを理解した。
男爵令嬢の、レア・クレスロンだ。この女、きっと前世の記憶を持って生まれてきたのだろう。現に前世での事を、事細かく説明している。魔力量も比較的多い様で、周りはすっかりこの女をジャンティーヌの生まれ変わりだと信じている様だ。
兄上までも完全に騙され“無能なアイリーンと婚約破棄をして、ジャンティーヌの生まれ変わり、レアと結婚する”と言い出した。
本当に、兄上はどこまで愚かなのだろう。
その女は、ジャンティーヌの生まれ変わりではない。桃色の髪に水色の瞳。間違いない、前世でジャンティーヌに近づき、肝心な場面で我先に逃げた女だ。その上、ジャンティーヌが魔王を封印した後は、自分がいかにジャンティーヌを支え魔王と戦ったかを、熱弁していた。
あまりにも腹が立ったため、俺と生き残った貴族兵たちが真実を話した結果、あの女は“大切な場面で逃げ出した卑怯者”として、皆から非難されていた。
その後あの女がどうなったかは知らないが、きっとろくでもない人生を送ったのだろう。
本当にあの女は、あの頃から何も変わっていない。きっと魔王が復活したら、我先に逃げるのだろう。それまでは、好きにしたらいい。
あんな女に騙され、踊らされている者も愚かだろう。正直俺は、こんな国なんてどうなろうともうどうでもいい。ただ、アイリーン嬢さえ幸せになってくれたら…
その為にも、今度こそ俺の手で、魔王を封印したい。もう二度と、あんな辛い思いをしないためにも。
俺は密かに準備を始めた。もし俺が魔王討伐に成功したら、アイリーン嬢をこの国から出国する事を許可する事。
この国にいる限り、アイリーン嬢は幸せになれない。それなら、他国で幸せになって欲しいと考えたのだ。魔物を討伐したものは、英雄としてたたえられる。きっと俺の願いも、ききいれられるはずだ。
もし俺が生きて帰れたら、その時は2人で国を出ようと考えている。もちろん、アイリーン嬢が拒否すれば、彼女だけを隣国に逃がすつもりだ。
何よりも、アイリーン嬢がこれから幸せに暮らせる方法を、俺は考えているのだ。彼女の為なら、この命を魔王に捧げてやっても悔いはない。
魔王、俺の心の準備は出来ている。早く復活してくれ!
そう毎日願う。だが、中々魔王は復活しない。
そんな中、兄上とアイリーン嬢の婚約解消が発表されたのだ。アイリーン嬢が兄上に好意を抱いているとは思っていなかったが、それでも王宮から去っていくアイリーン嬢の悲し気な顔が、気になって仕方がなかったのだ。
心配になった俺は、アイリーン嬢の家を訪ねると
「お嬢様は今、海に行っております」
そういわれたのだ。
海…
彼女は海が好きだと言っていた。ジャンティーヌも海が好きだった。きっと好きな海を見て、心を落ち着かせているのだろう。
でも…なぜだろう、この胸騒ぎは。
言いようのない不安が、俺を襲ったのだ。気が付くと、俺は海へと向かっていたのだった。




