第11話:運命とはどこまで残酷なんだ~ジルバード視点~
アイリーン嬢への重圧は、日に日に重くなっていく。そんな重圧に必死に耐えるアイリーン嬢の姿を見たら、胸が張り裂けそうになる。
そんなある日。
「アイリーン嬢、毎日貴族たちから圧を掛けられて、辛くないかい?君はジャンティーヌではないのに。毎日君の顔を見ては“ジャンティーヌ様の様に、この国を魔王から守ってくださいね”と言うだなんて」
「ジルバード殿下は、お優しいのですね。ですが私は、魔王を封印する事が仕事ですので。皆様が私に期待するのも理解できますわ。既に魔王が封印されて、500年が経とうとしているのです。
魔王がいつ復活しても、おかしくはないのですから。それにいつも気遣って下さるジルバード殿下のお役に立てるのも、嬉しいのです。私が必ず魔王を封印して、ジルバード殿下を守りますね」
そう言って笑ったアイリーン嬢。俺は君に守られたくはない、俺が君を守りたいんだ。でも、アイリーン嬢は、第二王子でもある俺を守るよう、教育されているのだろう。
母上も、アイリーン嬢に会うたびに、“ジルバードをしっかり守ってあげてね”と言っているし…
これ以上アイリーン嬢に、負担をかけたくはない。その為にも、もっと頑張らないと。そう思っていた時、最大の悲劇が起きたのだ。
そう、アイリーン嬢は全くと言っていいほど、魔力を持っていなかったのだ。8歳を過ぎたあたりから、猛烈な勢いで魔力量が増していくのだが…アイリーン嬢は全く魔力が増すことはなかった。
魔力量が多すぎるため、増えるのが遅いのか?最初はみんなそう考えていた様だが、10歳を過ぎてもアイリーン嬢の魔力は、平民以下。全く増える様子はなかったのだ。
その事を知った貴族たちの落胆と怒りはすさまじく、今までとは打って変わってアイリーン嬢を責め、迫害しだしたのだ。さらにアイリーン嬢の父親にまで、激しい抗議や嫌がらせが起きる事態になった。
そもそも彼女はただ、マクレス公爵家に生まれたというだけの令嬢なのだ。勝手に期待をしたのは、王族や貴族たちなのに…
兄上や母上も
「ジャンティーヌの生まれ変わりと聞いて、あの女と婚約したのに。こんなの詐欺じゃないか!公爵とあの女を、今すぐ訴えてやる!」
「本当に役に立たない女ね!あの女のせいで、ジルバードが命を落としたら、絶対に許さないから」
そう言って怒っていた。そんな彼らを、必死に宥めるが、俺の言う事など聞く耳を持たない2人。
完全に裏切り者になってしまったアイリーンは、酷い暴力や暴言を受ける事も少なくない。それは貴族学院に入ってから、増々酷くなる。
我が国では、皆が平等に魔力の勉強を学ぶため、15~17歳の間、貴族は全員貴族学院に通わないといけないのだ。
アイリーンは酷い暴力や暴言に耐えながらも、必死に通っていたのだ。あろう事から、婚約者でもある兄上ですら、彼女に酷い暴言や暴力をふるう始末。
笑顔がとても可愛かったアイリーン嬢は、いつも下を向き、人目を避けて隠れるように生活する様になってしまったのだ。
どうして彼女が、こんな目に遭わないといけないのだろう。彼女が何をしたというのだろう。
俺も必死にアイリーン嬢を守ろうとしたが、どうしても守り切れない。それが悔しくてたまらなかった。
そんな俺に対し、アイリーン嬢はいつも、申し訳なさそうにしている。そして、何度も俺に謝って来るのだ。
どうして君が謝るのだい?君は何も悪くないのに。
いっその事、魔王が早く復活してくれないだろうか。そうすればきっと、皆アイリーン嬢を虐めている暇もなくなるのに…
俺が命を懸けてでも、魔王を倒せば、もしかしたらアイリーン嬢への風当たりも少しは落ち着くかもしれない。皆魔王の恐怖から、アイリーン嬢に怒りをぶつけているのだろうから。
そんな俺の気持ちとは裏腹に、一向に魔王が蘇る気配がない。
そんな中、俺は毎日ある夢を見る様になったのだ。




