第8話 一応彼氏
映画の内容は、その他のロマンス映画と大して変わらなかった。大体、主人公とヒロインが偶然の出会いをきっかけで、恋に落ちて付き合う、ありふれたロマンス映画のストーリーだった。途中、いくつかの困難を乗り越え、サブヒロインが登場し、誰と結ばれるのかちょっと気になったが
どうせあの二人が結ばれるだろう。
こんなロマンス映画では、主人公とヒロインが結ばれるのは最後まで観なくてもわかる。予測できる結末だったので、そこまで面白くなかった。
ポップコーンでも食べるか。
俺は優月が持っているポップコーンに向かって手を伸ばした。
あれ? 可笑しい。きっとこの辺にポップコーンがあったはずなのに・・・。
俺はさらに手を奥まで入れた。しかし触れるのはボックスの底だけ、ポップコーンはどこにもなかった。
「まさか」
もうポップコーンを全部食べたのか。
もちろん入ってくる前から半分しか残ってなかったけど、かといってももう全部食べるなんて。俺、あんまり食べてなかったのに。
俺は優月に顔を向けた。
「・・・マジか」
優月を観た瞬間、呆れて思わず声を出してしまった。
隣席で映画を観ていたはずだった優月は、今目を瞑ってぐっすり寝ていた。
優月、この映画観たかったんじゃなかった? なのに寝るのかよ?
ポップコーンよりこれがずっと呆れた。この映画を観ようと言った人が、隣でぐっすり寝ているなんて。起こすのが申し訳ないくらいだった。
昨日寝れなかったのか。
まあ昨日デートについて調べて計画をするのに結構時間がかかっただろう。多分あまり寝れなかったはずだった。
俺はそんな彼女のためにあえて起こさなかった。見なかったことにしてまた映画に集中した。俺も寝ようか、と少し悩んだが、でもチケット代がもったいなく観るてことにした。
映画のストーリーは進む、やっと最後のシーンが終わり、エンディングクレジット出た。真っ暗だった劇場に電気がついた。人々が一人二人、劇場を出ていく音にやっと優月が目を開けた。優月は周りをキョロキョロ見回して映画が終わったってことを把握した。
「あ〜あ、面白かった。周も面白かった?」
「・・・プッ、プッハハハ」
「なななに? なんで急に笑うの?」
映画の上映中、ずっと寝ていたくせに、寝てないふりをする彼女を見ると、思わず笑いが出た。
「もーなんでそんなに笑うのよ」
「いや、なんでもない。映画面白かったな」
「ううん。やっぱ流行ってる映画は面白いね」
寝ていたくせに。
「何より周が面白かったってよかった。じゃそろそろ出るか」
「そう」
俺はポップコーンバックスに俺と優月の空っぽのドリンクホルダーを入れて劇場を出た。
「俺ちょっとトイレ行ってくる」
「うん、行ってきて」
約二時間以上の上映時間の間、トイレを我慢してたので、トイレにいきたくなった。俺は持っていた空きポップコーンバックスとドリンクホルダーをゴミ箱に投げ入れ、トイレへ向かった。
しばらくして、トイレで用を足した後、外に出た俺は優月がいたところへ戻った。
「あら、確かにここにいたのに」
周りを見回しながら優月を探した。
「灰色の髪・・・灰色の・・・あ、いた」
近くのベンチで灰色の髪の少女が座っているのが見えた。後ろ姿で、ただ同じ髪色の人である可能性もいたが、着てる服や体型、そしてぼんやりと見える横顔が優月に間違いなかった。俺はその少女に近寄った。
「お待たせ。早くっ」
「ねえ、俺たちと遊ぼうよ」
「俺たちと遊ぶ方がずっと楽しいから」
「何度も言ったじゃないですか。私、彼氏います」
あの人たちは誰?
ちょっとトイレ行ってくると、優月がチャラそうな男二人に囲まれていた。どう見ても知り合いではなさそうだが・・・。まさかナンパ? ナンパされているのか。
「嘘つくなよ。さっきからずっと一人だっただろ」
「だから彼氏がちょっとトイレに行って待ってるんですよ」
「また嘘つく」
「嘘じゅないってば」
優月が怒ろうとした刹那、俺と目が合った。優月はすぐ立ち上がって俺と腕を組んだ。
「ここの子が私の彼氏です」
「こいつがあんたの彼氏だと?」
チャラ男たちが信じられないという眼差しで俺を見つめた。
「お前マジでこの子の彼氏か」
「一応そうなんですが」
「一応? 一応ってどういう意味だ。お前マジで彼氏なんか」
チャラ男たちが威圧してきた。
これどうしよう・・・、と困っている刹那、俺を腕を掴んでほぼ後ろに隠れた優月が震えているのを感じた。チラッと横目で振り向くと、優月が微かに震えていた。
怯えたのか・・・。
「ふう、仕方ないか」
俺は深くため息をついた。そして顔を上げて目の前に立ったチャラ男たちをまっすぐに見据えた。
「俺が聞いてるだろ。マジで彼氏だって」
「彼氏です。だからもう行ってもいいですか」
「ダメに決まってるだろ。素直にあの子を」
「周りから見られてますよ。これ以上騒ぎを起こしたら面倒なことになりそうだし、そうなるとどっちが不利になるかわざわざ言わなくてもわかりますよね」
「はあ?! お前イカれたのか」
「おい、もう行こうぜ。これ以上関わったら俺たちが損だ」
「うー、わかったよっ!』
幸いに彼らは素直に引き下がった。もちろん、最後まで俺を睨みつけたが、別に気にすることではないから。
今はそんなことより、優月が先だった。俺はまだ後ろに隠れている優月に顔を向けた。
「優月、大丈夫?」
「・・・ももちろん! このくらい平気なんだから」
「さっきビビってたみたいだったが」
「そんなわけないじゃん。私をなんと思ってんだ。私、白井優月だよ。ナンパくらい慣れてるから、このくらいなんともないわ」
優月は腰に手を当てて堂々と言った。
強がらなくてもいいのに・・・。
俺の目にはそれが見えた。優月の肩が微かに震えているのが。
「そろそろ次の場所へいこーか。次もめっちゃ楽しいから、楽しみにしてて」
優月は普段とは違ってぎこちなく笑いながら前に歩いた。先に立って歩く彼女の両肩が小刻みに震えているのが目に入った。
はあ仕方ないな。
俺は彼女のそばに近寄り、彼女の手をパッと掴んだ。優月がびっくりした顔で俺に顔を向けた。
「ああああ周?!
「君が言ってたろ。移動する際は必ず手繋いでって」
「たた確かにそうは言ったけど、急に繋がれたら」
「それで嫌?」
「いや、そういうんじゃない。ただ・・・」
優月が顔を背けた。
「・・・ちょっとびっくりしただけだから」
優月が小声で呟いた。彼女の真っ白な頬が少し赤くなったのが見えた。
「さ、さあ行こーか」
「うん」
俺は優月と並んで歩いていった。なぜかはわからないが、さっきから優月は俺と目を合わせない。でも手を繋いで歩いていると、優月の震えがだんだんおさまっていき、やがて完全に止まった。
「少し落ち着いたか?」
「何が」
「さっき怯えて震えてただろ」
「ちちち違う。たただ・・・ただ寒かっただけだから」
「もうすぐ夏だが?」
「とととにかく怯えてない」
優月らしくなく恥ずかしがる姿がなんか新鮮だった。なんとなくもっとからかいたかった。
でももうやめようか。これ以上やったら怒りそうだし。
俺は断念した。
俺と優月は手を繋ぎ静かに歩いて、階下に下りた。窓口がある階下は俺たちが最初、ここにきた時より人が混んでた。
「優月ちゃん〜」
「なに」
急に優月が俺を見つめた。俺は首を傾げた。
「急にどうした」
「うん?」
今回は優月が首を傾げた。
「周、今、私呼んでなかった?」
「呼んでないが? 空耳じゃない?」
「そうかなぁ・・・」
優月はきょとんとした顔を浮かべた。しかし誰も優月を呼んだことなかったので、気にせずに歩き続けた。
「優月ちゃん〜、優月ちゃん〜」
「「・・・・・・!!?」」
俺と優月が立ち止まった。
「あ周、さっき聞いたよね?」
「うん。確かに今優月って聞いた」
「もう一度聞くけど、周じゃないよね?」
「うん。俺じゃない」
「じゃあ一体誰が・・・」
「優月ちゃん〜!」
背中からまた優月を呼ぶ声が聞こえてきた。俺と優月はゴクリと唾を飲み込み、同時に振り返った。そこには黒髪ボブヘアの少女が背が高い男子と腕を組み、片手では俺たちに向かって手を振っていた。男子も少女も、どっちも見たことない人たちだった。
「やっとこっち向いてるね。優月ちゃん、やっほ〜」
「え、鈴ちゃん!!?」
優月が驚いたように口を隠した。
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