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第10話 季節限定メニュー

 俺たちはエスカレートで下の階に下り、ショッピングモールの地下のフランチャイズカフェーに入った。カフェー内は木製をベースでインテリアで、なんか暖かい感じがした。

 俺と優月は入ってすぐレジに並んだ。


「周は何飲む」

「俺は・・・」


 俺はレジの上のメニューに視線を移した。

 特に飲みたいものもないし、カフェーとかあんまりきたことなかったので、何が美味しいか、わからない。しかもこのカフェーメニューが多すぎて選びがたかった。


 こういう時は、ベーシックなものが一番なもんだ。


「俺はアイスアメリカーノで」

「ええ、アイスアメリカーノって?!」


 優月は呆れたように聞き返した。


「アイスアメリカーノ以外のもんにしてよ。ほら、ここ美味しい飲み物多いから」


 優月がメニューを指で示した。

 しかし、何度見ても何がなんだかわからない。確かに日本語で書いてあるが、全く理解できない。俺が今まで使ってきた日本語が全部否定される気持ちだった。


 チョコやストロベリーくらいはわかるけど・・・。


「選べないの?」

「うん。何が美味しいか、わかんなくて」

「じゃあ私がおすすめしてあげよっか」


 優月が期待に満ちた目で聞いてきた。俺が首を縦に振って「頼む」という意思を示した。すると、優月は興奮して目を輝かせた。


「まずはここのフランベチーノはホイップクリームたっぷりでガチ甘くて死ぬほど美味しいよ。しかも、味も色々あって好きな味を選べるよ。ここでこの優月からのおすすめはストロベリー、バナナマンゴと・・・チョコレート、あ、ピーチも美味しいよ。あと、ここラテも美味しいよ。ベーシックなラテも美味しいけど、それよりイチゴラテをおすすめするよ。ここのイチゴラテガチ神だから。抹茶はちょっと甘さが足りなくて私の好みじゃないが、それでも美味しいよ。あと、季節限定メニューっていうのがあるけと・・・」


 興奮した優月は早口になり、息もつかず語り続ける。人ってあんなに途切れずに話せるもんなんだな、と新しい発見をした。


「で、周は何飲む」

「ん? あ、ちょっと待って、すぐ決めるから」


 実はさっきの優月の話、ほとんど聞き取れなかった。早口だったせいもあるが、人生で初めて聞く単語のオンパレードに頭が真っ白になって、何言ってるのか集中できんかった。


「なんだ、まだ決めてなかった? 私があんなにお勧めしたのに?」

「実は君の言ったこと、一つも聞き取れなかったんだ」

「それじゃ私があんな頑張ってお勧めした意味ないじゃん」


 優月が腕組んで口を尖らせた。せっかくおすすめしてもらったし、俺も早く決めたかったが、メニューを見ても理解できないから、なかなか決められなかった。


「はぁ・・・注文は優月に任せるよ。なんでもいいから、適当に頼んでくれ」

「わかった。じゃあなににしようかな」


 優月がすぐ腕組みを解き、浮かれた顔で俺を見た。そしてすぐにメニューの側に顔を向け、俺の代わりに悩んでくれた。


「うーん、これはこの前飲んでみたからパス。この味は前から飲みたかった。あ、でもこれも飲みたいし、あれにしようか。いやいや、これも前から飲みたかったから」

「ちょっと優月、俺の飲み物選んでるんだよな?」

「もちろん」

「なのになんで君の口から「前から飲みたかった」とか、聞こえてくるんだけど?」

「だって、周のを私がちょっともらっちゃうから」


 優月は「なんでそんな当たり前なこと聞くの?」っていう口調だった。


「俺はそんなこと言ったことないんだが」

「まあまあそう言わずに、一口くらいいいでしょ」

「まあ別にいいけど」


 実は俺の分まで全部飲んちまっても構わなかった。なんか飲みたいわけでもなかったし、お昼に食べたのもまだ完全に消化されてなかった。


「じゃ私が周の分まで注文するから、周は席確保を頼む。できれば椅子がふかふかな席で」


 優月がカフェー内を指さしながら言った。俺は首を縦に振った。

 俺は列から離れてカフェーの奥に向かった。店の奥は思ったより広くて席は多かったが、優月が頼んだふかふかな椅子の席は見つからなかった。


「全部硬い椅子だらけ。クッション付きはないか」


 俺はさらに店の奥に向かって周囲を見渡した。壁側のベンチにはクッションがあったが、腰が痛くなりそう。


「他の席探してみようか」


 俺は他の席をキョロキョロ探した。しばらくして、他の壁側の席を見つけた。そこには丸テーブルと椅子が二つあった。レジからずいぶん離れた場所だったが、椅子にクッションがあった。

 俺はそこへ近づき、椅子を小突いてみた。


「これくらいなら、ふかふかだろう」


 俺にとって十分ふかふかだと思うが、果たして優月が満足するかわからない。


「まあいいだろう」


 優月も満足するんだろうと思ってそこに座って席を確保した。そしてぼーっとして優月が来るのを待った。


「今まで一緒に飯食って、映画見たりしたが。これって友達と遊ぶのと何が違うんだろう」


 ぼーっとしていると、ふっと疑問に思った。

 まだデートは終わったわけじゃないが、優月と何時間をデートしたのに、未だにデートと友達と待ち合わせの違いがわからなかった。手を繋いで歩くこと除けば、普段ハルと待ち合わせとあまり変わりなかった。


「恋人と友達の関係からの違いか」


 もしデートと友達との待ち合わせの違いが関係の違いからくるもので理解できないのなら、俺には一生わからない。そもそも俺と優月は本当の恋人でもないし、他人(ひと)に関心なさすぎな俺が恋に落ちることなど絶対ないから。一緒恋人と友達の違いをわからない。


 そんなこと考えながらぼーっとして前を見ていると、遠くからトレーを持った優月の姿が目に入ってきた。キョロキョロして俺を探していた。俺は大きく手を振って、自分のいる場所がわかりやすいようにした。そして俺を見つかった優月が小走りでこっちに近づいてきた。

 彼女はテーブルの上にトレーを置き、席に座った。


「なんでこんな隅っこの席を取ったのよ。ずっと探してたんじゃん」

「君がふかふかな椅子を探してってっつってんだろ」

「あ、そうだったね」


 優月が椅子を小突いた。なんか検査を受ける気がしてなんとなく緊張した。


「ふーん、ふかふかだね。合格だよ」

「よかったぁ」


 優月に合格点を受けてほっとした。なんか緊張が解けて喉が渇いた。俺は何か飲もうと思ってトレーの上に置かれたドリンクに手を伸ばした。


 あ、そういえば俺のはどっちだっけ。


 イチゴ味っぽいドリンクと、イチゴ味とは違うピンク色のドリンクがあったが、どっちが俺のドリンクかわからなかった。俺は優月を顔を上げて優月を見た。


「優月、俺のドリンクはどっち」

「あ、これだよ」


 優月がピンク色のドリンクを俺に差し出した。


「これが今回の季節限定メニューだって。桃味らしいけど、気になって頼んでみた」

「そう?」


 桃味ドリンクの上、たっぷりのホイップクリーム。飲まなくてもわかった。


 これクソ甘そう。


 別に甘いもの嫌いなわけではないんだが、これは舌が麻痺されちゃうほど甘そうだった。でも今は喉が渇いたので、俺はストローに口を寄せた。


「どう?」


 俺がドリンクを口にした途端、優月が味を聞いてきた。


「うーん、甘い。すっごく」

「それだけ? 他の表現はない?」

「他の方言・・・」


 優月のお願いに、俺はもう一度ストローを口に運んだ。

 液体が口の中に入ってすぐ桃の香りが口いっぱいに広がった。そして液体と共に桃に推定される果肉が口の中に入って柔らかく噛まれ食感を加えてくれた。


「桃味ドリンクという名にふさわしい


「何よ、それ。もーいい。私が飲んでみるから」


 優月は自分のイチゴ味のドリンクをテーブルに置き、俺に「早くちょうだい」と手を差し出した。俺は彼女にドリンクを手渡した。


 俺のドリンクを手にした優月がニヤニヤしながらストローに口を寄せた。ストローをくわえろうとした瞬間、優月がたじろいだ。


 どうして急に止まったんだろう。飲みたがってんじゃなかった?


 と疑問に思った瞬間、優月が頬を少し赤らめてもじもじした。


「その・・・周、周のストローに口つけていい・・・?」

お読みいただきありがとうございます。

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