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第1話 私と付き合おう

細川(ほそかわ)くん、好きです。付き合ってください」


 五月の春。放課後に体育館裏に呼び出された俺はいきなり告られた。


 まさかあの手紙がマジでラブレターだったとは・・・。


 今朝、俺の下駄箱に手紙が置いていた。白い封筒の上にハートシールが貼ってあった。手紙には「放課後に体育館裏に来てください」と書いてあっただけで、送り手は書いていなかった。


『あれラブレターじゃない?』


 そのとき一緒にいた友達がそう言ったが、俺にラブレターなんて絶対あり得ないと思っていた。


 そう思ってたのに・・・。


「細川くん、返事は?」

「いやぁ、返事も何も君だれ?」

「え、細川くんは私のこと知らないの?」

「ごめん、俺、名前とか覚えるの苦手で。同じクラスではないよね?」


 向こうがどうして俺を知っているかはわからないが、一旦俺は初対面だった。

 腰まで伸びたサラサラで綺麗な灰色の髪。白雪姫を思い出させる白い肌、通った鼻筋、大きな瞳。芸能人並みに整った顔立ちは可愛すぎて人目を引くに不足はない。

 こんな美人、俺は知らない。うちの学校にこんな美少女がいたことすら知らなかった。


 こんな美少女に告られたら普通は嬉しいのが当然かもしれないが、誰かも知らない人にいきな告られて嬉しいどころか、戸惑った。そしてそれは俺だけじゃなさそうだった。告った彼女も随分驚いた様子だった。


「ガチで私のこと知らないの? 優月(ゆづき)だよ。白井(しらい)優月(ゆづき)

「どっかで聞いたような気はするけど」


 誰なのかはさっぱりわからない。白井優月、なぜかすごく耳慣れた名前であったけど、どこで聞いたか、誰から聞いたか、わからない。


「ガチで知らない?」

「さっきも言っただろ。知らないんってば」

「ガチで知らないよね? 嘘じゃないよね?」

「嘘じゃない」

「フフッ、そっか。ガチで私のこと知らないってことね」


 白井さんが妖しく笑った。そして彼女は急に拍手を打った。


「細川くん、おめでとう〜。テスト通過だよ」

「テスト? どういうこと?」

「私は今、学校で私のこと知らない人を探していたの」

「なんでそんなくだらないことを」

「だってほら、私ってすごく可愛いじゃん」


 白井さんが自分の顔を示しながら言った。俺は彼女の顔をじっと見つめた。


 まあ客観的に見ると可愛いのは確かだけど、それ自分で言うかい。初対面に失礼だが、ちょっと変な子だと思った。


「で学校で結構有名なのよ。多分この学校で私のこと知らない人はいないと思う。しかも私の知らないところで会話のネタになるんだって」


 だからどっかで聞いたような気がしたんだ。


「だから探していたんだ。学校で私のこと知らない人を」

「じゃあ、もう探したから、俺もう帰ってもいい?」

「わあ、細川くんはマジで私に関心ないね。嬉しい」


 ・・・やっぱり変な子だ。


「残念だけど私の話はまだ終わるまで帰られません。もうちょっと我慢して」


 白井さんが魅力的な微笑みで頼んできた。俺は仕方なく首を縦に振って意思表示した。


「なるべく早く終わらせてくれ」

「頑張ってみる。えーと、どこまで話しだっけ」

「知らない人を探してたまで話した」

「あ、そっか。でもさ、有名なのはクソ面倒くさいんだよ。毎日知らない人に告られるし、机と下駄箱にはラブレターでいっぱいだし。その度に断るけど、きりがないんだよ。断っても断ってもきりがない!!」


 俺とは全く関係ない世界の話だった。あれがモテる人の苦しみってことか。俺には一生わかる日が来ないし、わかりたくもなかった。


「マジでしんどい。もう振るのも疲れた。もう告白されたくない。うんざりなんだわ。そこで私、思いついたよ。いっそ偽装彼氏を作っちゃったら、ラブレターや告白する人がいなくなるんじゃないか、と。どう、いい考えだと思わない?」


 白井さんが目を輝かせて聞いてきた。なんか雰囲気上、「別に」と答えてはいけない気がした。


「まあ、いい考えだと思う」

「でしょう? だからさっき細川くんに告白したんだ。細川くんこそ私の偽装彼氏役にぴったりだと思ってたんだから」

「そっか・・・え? 今なんだと? 俺が彼氏役にぴったりだと?」

「そう!」


 白井さんは何の躊躇いもなく頷いた。そして俺の頭上にグエスチョンマークが一つ浮かんだ。


「なんで俺なんだ。まさか君、俺のこと好き?」

「はあ?! そんなわけないじゃん」

「じゃなんで俺が君の偽装彼氏役にぴったりなんだよ」

「だって私に全く関心ないから」

「なんだそのマヌケな理由は」


 理解できなかった。普通、恋愛っていうのはお互い関心があって好きになって恋人というの関係になるものだと知っているのに、関心ないから彼氏役にぴったりなんて。

 そんな俺の疑問に答えるように白井さんが口を開いた。


「細川くんは私に全然関心ないじゃん。私たちが高校に入学してから二ヶ月が経ったのに、まだ私の名前すら知らないほどだし。そんな細川くんなら気楽に付き合えそうだから、マジで偽装彼氏役にぴったりだよ。って私と付き合う? もちろん偽装で」

「いやだ」


 俺は何の躊躇もなくすぐ断った。


「なんでだよ。本当に付き合うわけじゃないし、本気で付き合うつもりはこれっぽちもないよ。私だって白馬の王子様を待ってるから。ただ付き合うふりをするだけだよ」

「そもそも俺になんの得もないだろ」

「たとえふりだけど、この可愛い私と付き合うチャンスだよ。これで十分でしょ」

「そんなチャンス、君に告白する人たちの中から適当に一人選んでやればいいだろ」

「いやぁそれがね。知らぬうちに私に対すて幻想っていうか、勝手にイメージをつけられたんだよ。白井は癒し系とか、天使に間違いないとか。私は全然そうなんじゃないのに・・・。あと俺に告白する人はせめて私のことが好きで告白するんじゃん。その想いを私のために利用する感じでやだ」

「じゃあ俺は?」

「細川くんは私に全く関心ないから全然オッケー。私にイメージとかないでしょ」

「まあ確かにそれはそう」


 誰だったかも知らなかったから。


「あと細川くんはなんか利用しても全然平気そうなんだから、まさに私の彼氏役にぴったりだわ」


 一体どういう理屈だよ。

 理解できなかった。


「細川くん、私と付き合おう。別に私のこと嫌いなわけじゃないでしょ」

「好きってわけでもない」

「ははは、こうだから細川くんがぴったりだと言うんだよ。私がこんなにお願いするのに断って。やっぱ細川くんじゃなきゃダメ。私と付き合うふりしてくれよ」

「いやだ」

「頼む。細川くんって今付き合う人もいないじゃん」

「そうだけど、でもやだ」

「それとも他に理由があるの?」

「それは・・・」


 実は特に理由はなかった。さっき白井さんの言った通り付き合う人もなかった。なのに、白井さんの願いを断るのはただ面倒くさそうだからだった。でもこれをこのまま白井さんに言うのはできないから、他の理由を探すことにした。


「それが・・・あ、実は俺は恋愛経験がないから、ちゃんとやれるかわからないし、初恋愛は心心から好きな人とやりたい」

「なんだ、細川くん案外ロマンティックだね」

「はは、そうかな」


 全然嘘だけど。


「でもそれが理由なら全然問題ないわ」

「え?」

「これはただ付き合うふりをするだけだからノーカンだよ。私だって恋愛経験はないわ。初恋もまだだもん」


 白井さんは何の問題ないと言わんばかりに言った。


「さあ、これで解決だよね? それともまだ他にある? ないなら、もう私と付き合おう」


 他に理由・・・・・・やばい。思い浮かぶのがなかった。そしてたとえ思い浮かんだとしても、白井さんが素直に納得するとは思えなかった。俺がダメな理由を言ったら、白井さんは「大丈夫、大丈夫」と言いつつ、問題にしない、そんな面倒くさい悪循環を延々と続きそうな気がした。


 これじゃきりがない。


 そう思うと、もう考えるのが面倒くさくなってきた。ただ早く帰りたいだけだった。


 いっそ付き合ってもいいかも。俺、別に恋愛にそんなに憧れがあるわけでもないし、恋愛なんてどうでもいいと思うから。


 熟慮の末、結局俺は白井さんに両手を上げた。


「・・・・・・はあ、わかった。付き合おう、偽装で」

「ありがとう」


 白井さんは微笑んだ。


「って付き合うふりって何をやればいい」

「普通の恋人みたいにやればいいじゃないかな」

「だからその普通ってなんだ」

「それは私も知らないよ。私があとで友達に聞いてみる」

「わかった。あと付き合うふり、いつまでするの」

「私がもういいって言うまで」

「それがいつまでなんだ」

「私も知らない」


 なんだ。なんだが騙された気がするが・・・。


「でももし付き合うふり中に、本当に好きな人ができたらそこで即終了で、どう?」


 白井さんがひひっと笑いながら俺の意見を聞いた。もう考えるのが面倒くさくなった俺は、彼女の言う通りに従った。


「好きにしろ」

「わかった。じゃあ今日から私たちは恋人だよ。もちろん偽装で」

「はいはい。もう用はないよね? 俺もう帰ってもいい?」

「うん。またね〜!」


 白井さんが明るい笑顔で手を振った。俺はすぐその場から離れた。

 こうして俺と白井さんの恋人ごっこが始まった。そのときの俺は夢にも知らなかった。白井さんとの恋愛が学校で何を意味するのか。


******


 翌日。俺は眠い体を引きずって学校へ登校した。下駄箱で靴を履き替え、校舎の中へ入った。校内の空気がどこかいつもと違っていた。廊下を歩いていると、普段と違って、なぜかみんなに見られているような気がした。


「あいつか」

「あの子が」

「マジか」


 生徒たちがヒソヒソ話す声が微かに耳に入ってきた。


 なんだろう。俺の話か。いやぁ、そんなわけないか。


 俺は大したことではないと思い、教室に入ろうとしたその時、突然背中から誰が俺を呼び止めた。


(あまね)!」


 聞き慣れた声だった。振り向くと、そこには桜色の髪をポニーテールで結んだ少女が息切れながら立っていた。知り合いだった。幼馴染の佐倉(さくら)ハルだった。


「あんたそれ本当なの?」

「何が」

「あんたガチで優月と付き合うの?」

「ん? 優月?」

「正直に言ってよ。付き合ってるの? あの優月ちゃんと?」

「あのさ、優月って誰? どっかで聞いたことある気がするんだけど」


 どっかで聞いた気がする名前だけど・・・誰だっけ。あと昨日付き合うふりをすることにした人はし、しら・・・・・・なんだっけ。

 昨日名前聞いたのに、忘れちゃった。

お読みいただきありがとうございます。

毎日6時くらいに投稿させて頂こうと思います。

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