第八十七話 学園大騒動! 先生まで巻き込まれて!?
リス奪取事件から端を発し、アリアの友人たちが結成した“アリアウォッチ隊”。
「アリアを兄さまたちの手から守る」……『兄たちの観察目的だったはずが』なぜか本人達(男性陣)もよくわからない崇高な使命を掲げ、気づけば日課のように過剰な護衛訓練を始めてしまった。
そして、今日も。
「アリア嬢が登校! 配置につけ!」
「右、よし! 左、異常なし!」
「本日の風向き良好! 鳩も問題なし!」
学園の門前で、彼女の友人たちはまるで軍隊のような動きを見せていた。
アリアはいつものように「え、ええと……おはよう?」と笑顔で会釈するのだが、その背後には――当然のように兄たちがいた。
「おい、ノア。あれは……」
「……始まったな、レオン」
そう、レイフォード家の兄弟、ノアとレオンである。
二人は護衛対象(=妹)の安全を確認するべく、今日も職務そっちのけで学園に“臨時視察”という名目で来ていたのだった。
◆護衛訓練、暴走中
「本日、アリア嬢に想定される危険は三つ! 転倒事故、食堂のパン争奪戦、そして――兄さま過保護過剰接近事件です!」
「うむ! 最後のは最大級の危険度だな!」
「討ち取れ兄ィズ!」
「……おい、最後のはなんだ」
「知らん。だが気に食わん」
友人たちは掲げた木の枝を剣代わりに構え、華麗な(本人たちにとっては)フォーメーションでアリアを囲う。
その姿は――遠目には微笑ましい遊び、近くで見ればただの暴走。
「きゃっ、危ないわよ!」
「アリア嬢! 伏せてください!」
バサッ!
木の枝が風を切って倒れたのは……アリアの鞄を狙った野良猫であった。
「おおっ……! 初の実戦成果!」
「これぞウォッチ隊の力!」
猫は追い払われたが、アリア本人はただただ目を丸くして呆然。
そして兄たちは――。
「ふむ、妹の鞄に手を出すとは……」
「見逃せないな。行くぞ、レオン」
「当然だ」
颯爽とマントを翻し、ノアとレオンが加わる。
いや、加わらなくても良いのだが、彼らはすでに我慢の限界であった。
◆先生、ついに巻き込まれる
「君たち! また廊下で騒いで――」
そこへ現れたのは学園教師、厳格で知られるホフマン先生である。
年齢は五十を過ぎ、口髭が立派で、学園でも一目置かれる存在。
「まったく……アリア嬢の周囲は毎度こうして……」
「先生! アリア嬢を守るために必要な行動です!」
「そうです、先生もご協力を!」
「な、なにを言うか。私は授業を――」
「先生の杖さばき、ぜひ戦術に!」
「先生、弓は得意と聞きました!」
ぐいぐいと押し切られ、先生は気づけば木の棒を握らされていた。
「……なぜ私はこんなことを」
「先生、背後を守ってください!」
「頼りにしてます!」
そして、ノアとレオンが加わった瞬間――。
「先生も護衛に参加か。頼もしいな」
「……いや、私はそんなつもりでは」
「ならば、我々と共に妹を守ろう!」
完全に仲間扱いである。
ホフマン先生の額に冷や汗が流れた。
◆学園、大騒乱!
その日。
学園中庭は――なぜか模擬戦場となっていた。
「右から来る! アリア嬢を守れ!」
「ぐわぁぁぁ!」(転んだ生徒)
「ぬぉぉぉ!」(巻き込まれる通りすがり)
生徒たちは勘違いして、「あれは新しい課題か?」と勝手に参戦し始める。
木の枝を振り回す者、机を盾にする者、果ては花壇のジョウロで水鉄砲を撃つ者まで。
「貴様ら、これは訓練ではない!」
「先生! そこだ!」
「うわぁぁぁ!」
ホフマン先生は否応なく水をかけられ、ついに堪忍袋の緒が切れた。
「よかろう! ならば私も本気を出す!」
杖を振りかざし、魔術の火花が散る。
学園生徒たちは歓声を上げた。
「先生、すごい!」
「これぞ模範!」
「……いや、違うんだが」
◆アリアの悲鳴
「ま、待って! みんな、落ち着いて!」
アリアの声は届かない。
友人たちは使命感で目を輝かせ、兄たちは剣呑な空気で周囲を睨み、先生はすでに戦闘モード。
結果、中庭はカオスの渦へと陥った。
「くっ、アリア嬢が危ない!」
「レオン、行くぞ!」
「任せろ!」
二人はマントを翻し、アリアの両側に仁王立ち。
同時に友人たちは「完璧なフォーメーションだ!」と感涙し、拍手喝采。
「……もう、やめてぇぇぇ!」
アリアの悲鳴が響き渡った。
◆大団円?
その後。
校長室に呼び出されたのは、兄たちとウォッチ隊代表?、そして巻き込まれたホフマン先生だった。
「君たち……何をやっているんだね」
校長は頭を抱えた。
だが当の本人たちは――。
「アリア嬢の護衛任務です!」
「妹を守るために必要な行動だ」
「先生の参戦は実に心強かった」
「……私は違う!」
こうして学園騒動は一応の収束を見せた。
しかし――翌日からも、ウォッチ隊の暴走は続くのである。
しかも今度は「先生も実質仲間だ」と認識され、彼の平穏な日々は遠ざかっていった……。




