第八十五話 過剰護衛兄ィズは舞台俳優!?
――昼下がりの学園中庭。
アリアは友人たちと花壇のそばで、のんびりと午後のひとときを過ごしていた。紅葉が風に舞い散り、金色の光が芝生の上にまだら模様を描く。
「今日は穏やかだね」
「ええ、リス事件のときとは大違いだわ」
笑い合うアリアと友人たち。しかし、彼女たちが安心している一方で――その背後にいる兄たちの様子は、明らかにいつもと違っていた。
レオンとノア。
二人は噴水の影に身を潜めながら、いつも以上に真剣な目で周囲を警戒している。
「……なあ、ノア」
「ん?」
「視線を感じる」
「おや、ようやく気づいたか」
「気づいたかって、お前は最初から?」
「もちろんだ。あれは……アリアの友人たちだな」
レオンは眉をひそめる。彼らの鋭い視線の先――木陰のベンチや窓辺から、アリアの友人たちがこっそりと覗いている姿があった。紙で作った望遠鏡を持っている者、ノートに記録をつけている者までいる。
「なにをしているんだ……?」
「どうやら我々を観察しているらしい」
「……は?」
――そう、彼女たちはすでに“アリア兄ウォッチ隊”へと変貌していたのである。
◆
「兄さま方、今日も美しい……!」
「護衛の立ち姿まで完璧……っ」
「メモ! はい、今のセリフも書きました!」
カリカリとノートにペンを走らせる音。
レオンは額を押さえて深くため息をついた。
「……なんでこうなるんだ」
「ふむ、人気があるのは悪いことではない」
「いや、アリアに余計な注目が集まるのはよくないだろう!」
そう言った途端――。
「きゃああっ!」
芝生の上から悲鳴が上がった。
見ると、友人のひとりがバランスを崩して転び、持っていたジュースが宙に舞い上がる。
――その瞬間。
「危ないッ!」
レオンが風を切る勢いで駆け出した。マントを翻し、まるで舞台役者のような豪華な身のこなしで。
同時にノアは指を鳴らし、どこからか差し出された布をジャストタイミングで投げ、ジュースをキャッチ。
レオンは転んだ少女を優雅に抱き上げ、ノアはこぼれかけた雫を布で受け止めた。
「……怪我はないか?」
低く響く声に、少女は顔を真っ赤にして震える。
「は、はいぃぃ……♡」
――次の瞬間、観察していたウォッチ隊の面々が一斉に歓声を上げた。
「でたぁぁぁぁっ! 究極の姫抱き!!」
「ノア様の布キャッチ!! 完璧なシンクロ攻撃!!」
「記録して! 記録ぅぅぅ!!」
◆
「……おい、ノア」
「なんだ」
「俺たち、舞台俳優じゃないんだぞ」
「いや、護衛とは常に華麗であるべきだ」
「……演出過剰だ」
「むしろ足りないくらいだ」
そう言ってノアは真顔でうなずく。レオンは頭を抱えた。
一方のアリアはというと、友人を助けられてホッとしたものの、兄たちがまた大げさに振る舞ったせいで周囲の注目が集中してしまい、頬を赤らめていた。
「も、もうっ……兄さま方はいつも派手すぎるのです!」
しかし、その言葉を無視して兄たちは堂々と立ち上がり、芝生の中央で陽光を背にした。
「我らは妹を護る者」
「アリアに近づく危険は、すべて排除する」
――その宣言に、ウォッチ隊はさらに目を輝かせる。
「すごい! 本当に守護騎士みたい!」
「アリア様の兄上、完璧すぎるっ!」
アリアは頭を抱えた。
こうしてまた、学園に“アリア兄伝説”が一つ追加されたのである。
◆
……その日の放課後。
馬車に揺られながらアリアはため息をついた。
「……どうして兄さま方は、いつもこうなのでしょう」
「当然だろう」
「我らの存在理由は――」
二人が声をそろえる。
「「アリアを護ることだからな!」」
堂々とした言葉に、アリアはもう返す言葉もなく、ただ窓の外に沈みゆく夕日を見つめるのだった。
――その背後の茂みでは、まだこっそりとウォッチ隊がメモを走らせていたことを、アリアは知らない。




