表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/172

第八十四話 アリア監視隊VS過剰護衛兄ィズ

秋の学園は、落ち葉が舞い、風も冷たさを帯び始めていた。

昼休み、中庭の長椅子では、アリアと友人たちが集まって、のんびりとパンや焼き菓子を広げている。


――しかし。


「……アリア嬢の左三十度、視線、あり!」

「正面二十歩の木陰に、また例の“ウォッチ隊”が!」


木陰に潜むのは、アリアの友人たち。例の事件(リスにお弁当を奪われ、アリア兄ィズに助けられた一件)以来、彼女の兄たちを憧れ混じりに「観察」し続けている子たちだ。

レオンとノアにとっては「不可解な監視者たち」。


「……兄上」

「わかっている、ノア。これは完全に“包囲網”だ」


表情は真剣そのもの。すでに戦場レベル。


――ここから、派手すぎる護衛劇が幕を開ける。



第一幕:盾の舞踏


アリアがパンをかじろうとした、その瞬間。

「アリア、待て!」

レオンがサッと前に立ち、懐から取り出した銀の食器をクロスさせる。


「……毒見だ」


「ちょっと! 兄さま!? ただの菓子パンですわ!」

アリアが慌てて止めるが、レオンは真剣だ。


ノアはすかさず、魔術で透明のバリアを張る。

「周囲から視線を感じる……! 矢の一本でも飛んできたらどうする」


――もちろん、そんなもの飛んでこない。飛ばしているのは友人たちの好奇の視線だけだ。

しかし兄たちは「敵の視線」と誤認。


透明なバリアに光が走る。

周囲の友人たちは「きゃぁぁ!」「またやってる!」と黄色い歓声をあげた。



第二幕:空挺護衛


午後の授業が終わり、アリアが教室を出る。

廊下を歩くだけなのに、兄たちの過剰護衛はさらにエスカレート。


「足元注意!」

レオンが素早くマントを広げて、廊下の段差に覆いをかける。


「アリア、こちらのルートを推奨する!」

ノアはまるで軍師のように進路を指定。生徒たちがギョッとして避ける。


そして――階段を降りるとき。

ノアは魔法陣を展開し、アリアの足元にふわふわの風のクッションを配置。


「転倒防止、完璧だ」


「いやいやいや! 階段ぐらい自分で降ります!」

アリアの抗議は届かない。


その様子をウォッチ隊の友人たちは息をのんで見守る。

「すごい……!」

「これが、レイフォード兄ィズの護衛術……!」


まるで英雄譚の観客のような目。



第三幕:過剰迎撃システム


放課後。

アリアが帰ろうとすると、校門前に“馬車”が横付けされていた。


普通ならば執事が御者台に座っているだけのはず。

――だが今日は違った。


「アリア! 乗車前、警戒!」

レオンが飛び降りるように馬車から出て、剣を抜いて空へ掲げる。


「警戒完了!」

ノアは馬車の上に飛び乗り、詠唱を開始。

「風よ、我が妹を害するものを排除せよ!」


突如、校門前に旋風が巻き起こる。

落ち葉が宙を舞い、生徒たちのスカートやマントが大騒ぎに揺れる。


「きゃー!」「かっこいい!!」

ウォッチ隊だけでなく、周囲の女子生徒までも悲鳴に近い歓声を上げた。


……もちろん、危険など一切ない。

でも兄たちには“脅威”が見えているのだ。


「兄さま!! やめてくださいまし!!」

アリアは真っ赤になって止めるが、聞く耳を持たない。



クライマックス:大暴走の兄ィズ


屋敷に帰宅後、アリアはぐったりと椅子に沈んだ。

「もう……学園で目立ちすぎてしまいましたわ……」


一方、兄たちは堂々と胸を張っている。


「今日も妹を完璧に護り抜いたな」

「うむ、ウォッチ隊ごときに妹の安全は脅かせぬ」


――いやいやいや。

ウォッチ隊はただの友人女子たち。妹のファンクラブみたいなものなのに。


だが兄たちにとっては、どんな存在も“潜在的脅威”。


その夜。

アリアが寝室に入ったとき、窓の外に何やら影が。


「……あら? あれは」


木の上に、レオンとノアが仁王立ちしていた。

月明かりに照らされ、剣と魔法陣を構えて――


「夜間警戒だ!」

「我らがいる限り、妹は絶対安全!」


……。


アリアは頭を抱えた。


「……兄さまたち、ほんとうに、どうしてこうなるのですか……」


だが少しだけ、心は温かい。

過剰すぎて困るけれど、それが兄たちの愛のかたち。


――こうして「アリアを見守る兄たち」と「兄たちを見守るウォッチ隊」という奇妙な構図は、ますます派手に、そして面白おかしく学園で続いていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ