第七十八話 父・アレクシスの溺愛が加速！？
アリアの父、アレクシス・セラフィム・レイフォード――王都でも名高い貴族の当主であり、その溺愛はすでに兄たちの過保護の域を超え、天元突破していると噂されていた。
ある日、レイフォード家の屋敷に静かな緊張が漂っていた。
「レオン、ノア、今宵は私の書斎に来てもらう。」
アレクシス・セラフィム・レイフォードは、威厳に満ちた声でそう告げた。王都でも名高い貴族の当主であり、誰もが一目置く存在だ。彼の一言には、命令であると同時に、家族を思う深い愛情が込められていた。
その夜、次兄レオン（17歳）と長兄ノア（19歳）は、普段の軽口を控え、緊張した面持ちで父の書斎の扉をくぐった。部屋の中には、父アレクシスがゆったりと椅子に腰掛け、静かに彼らを迎えている。
「父上、お呼びでしょうか」ノアが丁寧に頭を下げると、レオンも同様に礼をした。
「レイフォード家の長子として、そしてアリアの兄として、今一度自覚を持ってもらいたい。」アレクシスの瞳は鋭く光る。「我が娘の安全はもちろん、成長も見守る責任がある。最近の諸君の行動を聞き及んでいるが、正直、少々物足りない。」
「物足りない……？」ノアが眉をひそめる。
「いや、むしろ生ぬるいと言っていい。アリアが小さなトラブルに遭った際、諸君らが動じなかったと聞いたときは、驚きを禁じ得なかった。」
「父上、それは……」
レオンが弁解しようとしたが、アレクシスはゆっくりと手を上げて制した。
「我々はレイフォード家の誇りだ。甘えや油断は許されぬ。これからは、私直轄の“アリア見守り隊”を発足し、さらなる警戒を強化する。」
兄たちの表情に一瞬戸惑いが走ったが、同時に熱い期待も芽生えた。
翌日から、レイフォード家の館内外で、これまで以上に物々しい動きが始まった。
見守り隊には、王都でも屈指の魔法騎士団員や警護のエリートたちが選ばれ、最新鋭の魔法防御陣も敷かれる。だが、それだけでは飽き足らないのがレオンとノアだった。
「アリア様の安全のためなら、どんな手段も惜しまない！」と意気込む二人は、かえって過剰なまでに警備を強化していく。
ある日、アリアが学院へ向かう際には、馬車の周囲に十重もの魔法障壁を展開。これがあまりに強力すぎて、通りかかった商人の荷車が跳ね返されて転倒してしまい、王都中で話題になった。
また、レオンはアリアの学院の敷地に到着すると、密かに魔導センサーを配置し、周辺の異変を監視。あまりの厳重さにクラスメイトから「秘密基地みたい」と笑われるほどだった。
ノアは昼食の時間、アリアの友人たちと一緒に食事をする様子を遠目で見守ろうと、学園の高い木の上に忍び込み、双眼鏡で監視していたという。
ある日、アリアが友人たちと庭で読書を楽しんでいると、兄たちが巨大な魔法障壁でその場を包囲。通りがかりの貴族たちが「ここはもう要塞か」と苦笑いした。
兄たちの過保護ぶりは、時に近所の噂話のネタとなり、ある貴族の婦人は「レイフォード家はまるでアリア姫を金庫の中に入れて守っているみたいね」と感想を漏らしたほどだ。
それでもアリアは、兄たちの行き過ぎた行動に時折困惑しつつも、その背中に安心感を覚えていた。
ある夕暮れ、学院からの帰り道で小さなトラブルがあった際、兄たちは即座に対応。強盗に遭いかけた馬車を守り、相手を退散させたときのことだ。
夕陽に照らされて輝く兄たちの背中を見つめ、アリアは心から思った。
「やっぱり、兄様たちがそばにいる方が安心かもしれない。」
だが、その安堵も束の間。家では、父アレクシスの更なる溺愛が炸裂し、兄たちの過保護の基準はさらに上がることになる。
ある晩、再び家族会議が招集された。
「お前たちの警護はまだ甘い。私が直轄で“アリア見守り隊”を率い、あらゆる可能性を潰す。」
そう言って、アレクシスは新たな護衛隊を組織し、彼らは24時間態勢でアリアの動きを監視し、何かあればすぐに対応するよう命じた。
兄たちは内心、胸を躍らせながらも、父の強烈な溺愛に「もう誰も敵わないな」と苦笑した。
そんな過保護ファミリーの日常は今日も続く。
兄たちはアリアのために毎朝早く起きては、魔法で天候を整え、最適な登校日和を作り出す。
外出時は複数の護衛隊を連れて、魔法障壁や警護魔法を張り巡らせて移動。レオンは最新の魔法防具をアリアのために改良し、ノアは防犯用の魔道具を身につけさせている。
このせいで魔法や魔道具が発展していくのは別のお話である（笑）
アリアの友人たちは「本当に兄さまたちは大変そう」と微笑みつつも、どこか羨ましそうに彼女を見ている。
そして兄たちは今日もやり過ぎる。
一度は、アリアが公園で遊んでいるとき、兄たちが大声で「安全確認完了！ヨシ！！」と、どこかのネコの様に宣言し、周囲の野鳥や小動物が一斉に飛び去る騒ぎに。
また、学院の発表会では、兄たちが緊急事態を想定して作成した防災プランを熱弁し、教師や関係者を困惑させる場面もあった。
そんな兄たちの過剰な愛情は、時に家族の絆を深め、時に周囲を困惑させながらも、変わらずアリアのために燃え続けている。
父・アレクシスの溺愛が加速し、直轄の“アリア見守り隊”が結成されても、兄たちは決して引き下がらない。
「お前たち、もっとやれるはずだろう？」
「はい、父上！」と兄たちは声を揃え、今日もまた新たな“過保護計画”を練るのだった。
果たして、アリアのための過保護はどこまで続くのか。
レイフォード家の物語はまだまだ続いていく――。
