表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/172

第七十一話 妹を巡って王子と兄たちが正面衝突!? 学園の廊下で繰り広げられる“静かなる火花”!!

■朝の予兆


朝の光が、ステンドグラス越しに廊下へと差し込んでいた。

古びた魔法学院の石造りの壁は、淡く色づき、まるで幻のような模様を刻んでいる。

普段なら、そんな幻想的な光景に足を止めてしまうアリアだが、この日は妙な緊張感が足を早めさせていた。


(……今日、何か起きる気がする)


昨日、クラスの子たちがこそこそと話していた内容が、頭から離れない。

「温室事件」――そう呼ばれ始めた一件。

防犯魔法が暴走し、王太子殿下と共にいたところを兄ライナルトたちに見つかった。

あれ以来、廊下を歩くたびに視線を感じるのだ。



■運命の廊下


二限目の授業が終わり、アリアは教室を出た。

窓際から差し込む秋の陽射しが、廊下に淡い影を落とす。

遠くで笑い声や本を閉じる音が混じる中、前方に異様な空気が漂っているのがわかった。


そこには――


王太子アルヴィン=レグニス・ルシアス殿下。

そして、アリアの長兄ライナルト、次兄グレン。


三人が、廊下の中央で対峙していた。


周囲の生徒たちは距離を取り、まるで見えない結界が張られているかのように近づかない。

空気は冷たく澄んでいるのに、肌にぴりぴりと刺すような緊張が走る。



■最初の一言


「……殿下。最近、妹に接触される機会が増えているようですが。」


低く、よく通る声。

ライナルトの表情は穏やかだが、その青灰色の瞳は決して笑っていない。


「彼女は私の学友であり、共同研究者でもある。距離を取る理由はないと考えるが?」


アルヴィンもまた、王族特有の冷静さを崩さない。

だがその瞳の奥には、強い意志と――負けるつもりのない光が宿っていた。



■会話が剣になる


「学友という言葉で包んでおられるが……私には、境界線を越えているように見えます。」


「境界線を定めるのは本人の意志だ。

 ……君たちの“守る”は、時に窒息に似ている。」


わずかに空気が重くなる。

グレンが一歩前に出た。


「殿下。妹はまだ七歳です。彼女の時間をどう使うか、慎重に考えていただきたい。」


「慎重に、ならば尚更、彼女が望む学びを妨げるべきではない。」


言葉と言葉がぶつかる音が、廊下の静寂に響いた気がした。


■アリアの登場

(ああもう、やっぱり……!)


耐えきれず、アリアは駆け寄る。


「兄様、殿下! ここ、学園ですから! ケンカはやめてください!」


必死に声を張ったが、二人とも視線を逸らさない。

アリアの存在が空気を和らげるには、今の緊張はあまりにも強すぎた。


■周囲の反応

廊下の端では、クラスメイトや上級生が固唾を飲んで見守っていた。

「すご……本物の王太子と、あのレイフォード家の兄上たちだ……」

「目で殺し合ってない?」

「アリアちゃん、挟まれて大丈夫なの……?」


噂が、瞬く間に広がっていくのがわかる。

こういう時の学園は、魔法よりも速い。


■第三勢力の介入

「ちょっと待ったー!」

軽やかな声が響き、ミリアとカイルが駆けてきた。


ミリアは腰に手を当て、兄たちと殿下を順に睨む。


「二人とも、アリアちゃん困ってるでしょ!」

「兄上たちが過保護すぎるのはいつものことだが、殿下も全然引かないんだなぁ」と、カイルが肩をすくめる。


一瞬だけ、兄たちと王子の間に沈黙が落ちた。

だが――


「……妹を守るのは当然だ。」(ライナルト)

「……研究の進行を妨げる行為は看過できない。」(アルヴィン)


再び、火花が散った。


■終わらぬ火種

授業のチャイムが鳴る。

それでも二人は最後まで視線を外さなかった。


「……続きは、また後で。」


そう言って、それぞれ別方向へ歩き出す。

その背中からは、まだ熱のこもった気配が漂っていた。


アリアは肩を落とし、深くため息をつく。


(この先もずっと、この二人……というか三人? はこんな感じなんだろうな……)


■小さな予告

放課後。

アリアは窓から温室の方角をちらりと見た。

秋風に揺れる《ミミタブサボテン》の姿が見える。


――まるで、「次も波乱だよ」と囁いているように。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ