第六十八話 妹、“王子と放課後”で注目の的!? 魔法研究会は今日も波乱万丈です!!
秋風が心地よく吹き抜ける午後。
放課後の学園で、アリアは魔法研究会の扉をそっと開けた。
「失礼します……」
「待っていたよ、アリア嬢」
微笑んで出迎えたのは、王太子アルヴィン=レグニス=ルシアス殿下。
金の髪に深い蒼の瞳。年齢は11歳ながら、既に王族としての気品と聡明さを備えていた。
「今日は、“魔力干渉の再現実験”の続きをしよう」
「はいっ。準備はできています!」
机の上には、前回ふたりで試作した“魔力応答球”が並べられていた。
アリアがそっと魔力を送り込むと、球体がふわりと宙に浮かび、七色の光を描きながら回転する。
「これは……すごいな。こんなに安定しているとは思わなかった」
アルヴィンの瞳がきらりと輝く。
「アリア嬢、君の魔力量と制御力……本当に規格外だよ」
「えっ……えええっ!? そ、そんな……あの、兄様たちには内緒でお願いしますっっ!!」
「ふふ……なるほど。兄上たちの“過保護フィルター”はここでも健在か」
王太子は、ひとつ咳払いしてから姿勢を正した。
「実を言うと、私には目的があるんだ。この魔法研究会も、その一環だ」
「目的……ですか?」
「王国の未来を担う若き才能たちと、真の意味での“対等な絆”を築きたい。
血筋ではなく、志を同じくする者同士として――ね」
アリアはその言葉に、どこか懐かしさと暖かさを覚えた。
(前の世界で……そういう関係、ほしかったのかもしれない)
「……わたしも、何かの“力”になるなら、頑張ります!」
「ありがとう、アリア嬢。……いや、これからは“アリア”と呼んでもいいだろうか?」
「っ……はい!」
◆ ◆ ◆
その日の帰り道。
アリアが部室から出てくると、廊下のあちこちからざわめきが――
「今、アリア様と王太子殿下が……」
「手、触れてた!? 触れてたよね!?」
「いや、目が合ってただけでももう尊い!!」
(ええええっ!? わたし何もしてないよぉぉ!?)
◆ ◆ ◆
そして翌朝――
レイフォード邸の朝食風景。
「……アリア。昨日、誰かと“手”を触れたか?」
レオンが冷静に問いかける。
「えっ、ええっ!? ど、どうして知って――」
「噂が飛んでいる。“王太子とアリア嬢の密会”だと」
「密会!?!? ちがいます!!研究会です!!放課後の活動!!」
ノアがフォークを置き、目を伏せる。
「……やはり、あの王子は“狙っている”な」
「だから違いますってばぁぁあああ!!!」
◆ ◆ ◆
その後、アリアはレイフォード家“特別警戒監視モード”に突入。
・護衛の増員
・手紙チェック強化
・おやつの“盗聴防止魔法”添付(!?)
「なんでわたしのお菓子まで監視対象にされてるのぉぉぉ!!?」
◆ ◆ ◆
そんな中でも、アリアは王子との活動をこつこつと続けていた。
魔法研究会では、“魔力振動による音波共鳴”をテーマにした実験が進行中。
そこに加わったクラリスやエマも、最初は戸惑いながらも次第に楽しそうに参加していた。
「アリア、次の放課後も手伝ってくれるか?」
「はいっ。……わたし、がんばります!」
ただの“研究活動”なのに。
でも、そこに生まれた絆や信頼は、きっと未来へと続いていく。
たとえ過保護な兄たちに囲まれていても――
アリアは、アリアの歩幅で、前へと進んでいくのだった。




