第七話 ──兄たち保護者面談に緊急参戦!? 教師ドン引きの“過保護兄バリア
王立初等学園・特別教室――その日、教員室には緊張が漂っていた。
「……本日、レイフォード伯爵家より保護者面談の申し出がありましたが……」
「いらっしゃるのは、ご両親ではなく……“ご兄弟”だと?」
教師たちがざわめく中。
──コン、コン、コン。
三度、淀みのないノックが扉に響いた。
「どうぞ」
担任教師が返事をすると、扉が静かに開かれる。
「失礼いたします」
「本日は妹の件で、少々お時間をいただきたく参上しました」
そう言って現れたのは、完璧な制服に身を包んだ二人の少年。
一人は、冷静沈着な眼差しを持つ長兄・ノア・レイフォード(14)。
もう一人は、笑顔を浮かべた人懐っこい次兄・レオン・レイフォード(12)。
所作も声も丁寧で、それだけを見れば申し分ない礼儀。
……だが。
(……えっ、この二人が“過保護兄”って呼ばれてる人たち……!?)
担任たちは背筋を伸ばしつつ、内心でごくりと唾を飲んだ。
「ではまず、アリア様の学園でのご様子を──」
「その前に、いくつかこちらから確認を」
ノアが静かに手帳を開いた。
「魔法演習時に使用されている障壁の耐久等級は?」
「え……現在は、初等向けの標準防護ですが……」
「アリアには中級魔法の出力兆候があります。
現行の障壁では破損の恐れがあり、事故につながりかねません。
安全のため、最低でも中級対応の耐魔障壁を準備してください」
「なっ……!?」
教師陣がどよめく中、さらにレオンが元気よく口を開いた。
「あと! お弁当の時間に麦茶を出してほしいです! 魔力消耗の回復にいいから!!
それと、日陰の机じゃないと日焼けしちゃうかもしれないし──」
「……それは過保護すぎます」
と、ノアがすかさず制止。
(なんだこの兄弟の連携……!)
担任は、震える指でメモを取るしかなかった。
「ですが、アリアさん自身からは、特に不満の訴えはありませんでしたよ?」
教師が恐る恐る反論すると、ノアが表情を変えずに答える。
「妹は“我慢して笑う”子です。
本人が口にしないからこそ、我々が気づいて手を打たねばなりません」
「そうです! アリアは優しすぎるんです!!
なのに! 火柱出しても怒られないって思ってるんです!!」
「それは少し問題では!?」
「でしょ!?」
教師とレオンが意気投合し始めていた。
すると――
「も、もうやめてぇぇ……!」
控え室の扉の陰から、そろりと顔を出したのは当の本人、アリアだった。
「兄様たち、面談って言っても学園に殴り込みじゃないんだから……っ」
「アリア!? 来てたのか」
「気になって……先生に迷惑かけてないか、ちゃんと見届けたくて……」
「むしろ来てくれて助かりました」
と、担任は深くうなずく。
「お兄様方の気持ちはありがたいのですが、アリアさんはとても素直で努力家です。
学園でもすっかり慕われていますよ」
その言葉に、ノアとレオンの肩がすっと落ちる。
「……そうか。なら、よかった」
「じゃあ、麦茶は出さなくてもいい……かな?」
「いや、そこは出してあげてほしいかな……」
「どっちやねん……」
とアリアが小さく突っ込みを入れたが、
その日、兄たちは教師としっかり向き合い、穏やかに面談を終えたのだった。
帰宅後のレイフォード邸。
「……今日のこと、すごくうれしかったよ。
でもね、お兄ちゃんたち……ちょっとだけ、わたしのこと信じてみて」
アリアの小さな言葉に、兄たちは少し目を伏せた。
「……わかった。少しずつ、見守ることに慣れていくよ」
「でも緊急時は即介入だからね! 魔導障壁と転移陣は維持しておくからね!」
「緊急時だけね!?」
──こうして、「兄たちの過保護保護者面談」は一応の形で終わった。
その後、学園にて「保護者面談は一家庭につき一名まで」という新しい通達が出たのは、言うまでもない。