第六十三話 妹、魔法薬学で初の“研究発表”!? 王子と共同研究でまたしても兄たちの胃がキリキリ!?
秋も深まりつつあるある日のこと。
初等学園の魔法薬学の授業にて、各自の研究テーマ発表が行われることになった。
「今回の課題は、“日常生活に役立つ魔法薬の提案と実演”です」
と、講義を担当する魔薬学のカメリア先生は優雅に言ったが――
その実、これは“成績に直結する超重要発表”だった。
「発表順はくじ引きで決めましょうね。公平に。あら、アリアさんがトップバッターですって♪」
「え、えぇぇぇ……!?」
思わず声が裏返るアリア。
しかしその時、学園の廊下に貼り出された発表テーマ一覧を見て、生徒たちはざわついた。
発表者:アリア・リュミエール・レイフォード
共同研究者:アルヴィン=レグニス・ルシアス王太子
テーマ:『魔力回復促進とストレス軽減を両立する“香るポーション”の実用化』
「……王子と共同研究!?」
「しかもテーマ、なんかすごそうなんだけど!?」
「レイフォード嬢って確か、“魔力量だけなら王国記録”って噂の……」
騒然となる教室。
その後ろで、教室の窓に張りついている兄たちがいた。
「共同研究……だと……」
「アルヴィン王太子、11歳にしてアリアの隣をゲット……!?」
「これは非常事態だ。情報部に即連絡を」
「落ち着いて!? 授業参観でもないのに教室覗かないでぇ!!」
数日後。発表当日。
ステージの上には、淡いピンク色の液体が注がれた小瓶が数本並べられていた。
アリアが手をかざすと、瓶からふんわりとした香気が立ちのぼる。
「この魔法薬は、わたしたちが共同で調合した“リラフィーユ・エッセンス”です。
ラベンダーとカモミールの香りに魔力の波長を同調させることで、魔力回復とリラックス効果を同時に引き出します」
アルヴィン王太子が、堂々と補足する。
「この研究は、日常の小さなストレスが蓄積して魔力の消耗に影響することに着目し――」
「王子、めっちゃ語るじゃん!」
「しかもアリア嬢と息ぴったり!?」
「これ、将来の政略結婚とかあるやつじゃない?」
ざわつく生徒たち。
そして――観覧席に“潜入”していた兄たちが限界を迎える。
「政略結婚!? そんなの許すかぁぁぁ!!!」
「アリアはまだ七歳だぞ!! 王子と共同研究とか、早すぎる!!」
「兄として、全力で“王子ガード”を発動するっ!!」
「やめて! このタイミングで乱入しないでぇぇぇぇ!!」
舞台裏で制止する教師たちの声もむなしく、
レオンは“護衛名目”で登壇寸前、ノアは魔法薬の分析結果を“安全検査”として再確認し始める始末。
「……あ、あの、これは“課題発表”であって、婚約の儀ではありません……」
王太子が冷静に突っ込む中、アリアは天を仰いだ。
(わたしの学園生活、どうしてこうなるの……)
放課後――
「……で。お兄様たち、今後の共同研究には何か条件を?」
アリアが眉をひそめて問いかけると、兄たちは揃って言った。
「王子との接触は、週一回まで」
「報告書は毎回提出。接触時間、内容、感情の動揺有無まで記載せよ」
「お役所ぉぉぉぉぉぉ!! しかも感情ってなにぃぃぃ!!?」




