第六十二話 妹の“学園生活リズム”が兄たちのせいで狂う!? アリア、日常の平穏を取り戻せ!!
「はぁ……今日も“おはよう”より先に“兄様が来てる”って言われた……」
秋の朝。
アリア・リュミエール・レイフォードは、通学馬車を降りた瞬間から周囲の視線を一身に集めていた。
なぜかというと、校門の前で兄ノアとレオンが“早朝見守り隊”を結成していたからである。
「……早すぎます、お兄様たち。まだ教師の方々すら来てません」
「妹の安全確認に“早すぎる”などない」
「それに今日の天気だと、日差しが少し強めだから、日傘を届けたくてな」
「……それ、わざわざ貴族街から持ってきたんですか?」
「当然だ。アリアに最適な紫外線防御率を計算して準備した」
「だからって学園の門の前で開かないでくださいぃぃ!! みんな見てるぅぅ!!」
登校初っ端から、アリアのテンションはダウン気味。
そしてこの騒ぎは、授業が始まっても終わらなかった。
一時間目。魔法理論。
「それでは次の課題は――レイフォード嬢?」
「は、はいっ!」
「……また、ですか」
先生はチラリと後方を見る。
そこには、教室外から“兄たちがこっそり見守る”という名目の監視窓が設置されており、ノアが双眼鏡で妹の反応をチェック中だった。
「……先生、あれって合法なんですか?」
「建物の構造上、どうしても塞げなかったんです。もう慣れました」
「慣れちゃだめです!!」
昼休み。
今日はお弁当がある日。アリアは楽しみにしていた。
「今日はエマとクラリスと三人で、庭園でピクニックです!」
「いいね〜! 秋風の中で食べるお弁当、絶対おいしいよ!」
「わたし、パパがこっそり持たせてくれた焼き菓子もあるの」
ウキウキと芝生へ向かったアリアたち。
だが、そこに待ち受けていたのは――兄たち謹製の**“お食事用バリアテント”**。
「……なんですかこれ」
「急な雨と虫対策に備えた、最新型テントだ。空調付き」
「いや、風の音すら聞こえないんですけど!? 季節感ゼロ!!」
中に入ると、白いテーブルクロスにシルバー食器、三方向から流れる癒やしの風と音楽。
「なんでピクニックなのに、ここだけフルコースの雰囲気出してくるのぉぉ!!」
クラリスもエマも、慣れてきたとはいえ、毎度の過保護空間に脱力していた。
放課後。
「今日は帰りに図書館寄ってから、ゆっくり馬車で帰ろうっと」
そう言って歩き出すアリアの横を、すうっと影がよぎる。
「やあ、アリア。送迎馬車、玄関前に待機中だ。温度調整済みだよ」
「……レオン兄様。私、普通に帰りたいんです。寄り道とか、ちょっと自由が欲しいんです……」
「寄り道? 危険だ。寄り道許可証は明日から正式申請で」
「お役所かぁぁぁぁぁ!!」
その夜、アリアは自室のベッドの中で天井を見つめながら、静かに嘆いた。
「……学園生活が、どんどん“レイフォード式”になっていく……」
前世の記憶を持って生まれ変わったとはいえ、こんなにも“平穏な日常”を維持するのが難しいとは思わなかった。
だが、翌朝も――
「おはよう、アリア。今日はおにぎり弁当だよ。塩分濃度は調整済み」
「ノア兄様、今朝は何時から起きてたんですか……」
「四時。早朝警備を兼ねて、おにぎり握った」
「そんなに気合入れなくていいですからぁぁぁ!!」
果たしてアリアが“普通の学園生活”を手に入れる日は来るのか――。
その答えは、まだ遠い未来にある……かもしれない。




