第六十一話 妹、転入生と急接近!? “おともだち候補”に兄たちの審査の目が光る!!
秋の風が冷たさを帯びはじめたある日のこと。
初等学園の朝礼で、教師がいつもと違う口調で言った。
「本日より、新しい生徒が初等学園に加わります」
ざわつくクラスメイトたち。
その空気の中、扉が静かに開かれた。
「よろしくお願いします。ミシェル・アーデルハイトです」
現れたのは、白銀の髪に緋色の瞳を持つ、整った顔立ちの少女だった。
一瞬、教室中がしん……と静まり返る。
その中で、アリアの隣にいたエマが、そっとつぶやいた。
「……なんだか、ただ者じゃないオーラあるね、あの子」
アリアも頷いた。
だけど、なぜだろう――その瞳を見た瞬間、なにか懐かしいような、不思議な気持ちになったのだ。
休み時間。
アリアは思い切って話しかけてみた。
「ミシェルさん、よかったら……一緒にお昼、食べませんか?」
「えっ……いいの? ありがとう。アリアさんって、優しいんだね」
ぱぁっと笑ったミシェルの表情に、アリアもつられて笑う。
「ううん、わたしも新しい友達ができてうれしいの。……ミシェルって、転入ってことは、前は別の学園に?」
「うん、ちょっと北方のほうの……騎士候補生が多い場所だったから、女子は少なかったの」
「えっ、それじゃ戦闘系!? 魔法も剣もできるの?」
「うん。どっちかというと、剣術のほうが得意かも……でも、こっちの学園はすごく華やかでびっくりしちゃって」
和やかに話す二人の様子を、遠くから――いや、ものすごく近くから睨むように見ていた人たちがいた。
そう、兄たちである。
「……アリアが知らない子と仲良く喋っている」
「笑顔指数2.3倍」
「……要注意だ。顔が良い。瞳も印象的だ。これは……恋愛フラグの“芽”の可能性がある」
「まずは家柄調査から始めよう」
「いや、まずは“性格・価値観の審査”だ」
「いや、“アリアの好み”に該当するかどうかが先だ」
三者三様にブツブツとつぶやく過保護兄たち。
気づいている周囲の生徒たちは、遠巻きに「また始まった」と肩をすくめる。
昼休み。
中庭に広げたレジャーシートに、アリア、エマ、クラリス、そしてミシェルの4人。
そこへ――“完全に不自然な”タイミングで、レオンがふらりと現れる。
「やあ、アリア。昼食中かい? 今日はちょっと、様子を見に来ただけだ」
「お兄様!? 偶然のふりしないで!! わたしの“新しいお友達”に審査の目を向けないでぇぇ!!」
「いや、あくまで“交流の一環”だよ? ねえ、ミシェルさん。アリアと仲良くしてくれてありがとう」
「は、はい……あの……ど、どういたしまして?」
レオンのやわらかな笑みに、ミシェルがタジタジになる。
しかし次の瞬間。
「ふむ、家紋はアーデルハイト家……古い騎士系の貴族だな。なるほど、礼儀はきちんとしている」
「実戦経験あり。戦闘能力は高い。アリアの護衛にも向いている可能性が」
「むしろ仲間に引き入れるべきでは?」
「いや、それは早計だ! もっと見極めるべきだ!!」
「審査項目を増やせ!」
「なんで増えてるのぉおおお!!?」
アリアが叫ぶころには、レオンとノアはそれぞれノートに“ミシェル・審査チェックリスト”を作り始めていた。
その日の放課後。
「アリアちゃんって、ほんとに……なんというか、“お姫様”なんだね……」
そうつぶやいたミシェルに、アリアはため息をつきながら答える。
「違うの。わたしは“普通の女の子”になりたいだけなのに……」
でもその顔は、ほんの少しだけ――楽しげだった。
「でも……友達になれてよかった。よろしくね、ミシェル」
「うん! アリア、これからもよろしくね!」
そんな二人の後ろで、今日も兄たちの“妹防衛会議”は静かに開催されていたのだった。




