第五十九話 妹、図書館で“謎の魔導書”を発見!? 禁書指定なのにうっかり開いちゃいました!?
初等学園の午後。いつもと変わらぬ穏やかな時間。
アリアは、ひとり図書館の奥で魔法書をめくっていた。
(進級課題に向けて、もう少し理論を知っておきたいな)
前世での読書習慣が抜けない彼女にとって、本の海は宝の山。
ふと、ふとした拍子に、いつもは鍵がかかっている“立ち入り制限区域”の扉が半開きになっているのを見つけてしまった。
「……誰か、閉め忘れたのかな?」
ほんの出来心だった。扉をノックしても返事はない。
ならば、と。アリアは小さく息を吸って、そっと扉を押した。
(少しだけ。ほんの少しだけ、見るだけ)
だが、そこにあったのは――
「……これは……“時空属性魔術の応用概論”?」
革張りの表紙。手書きの魔法陣。筆記体で記された古文書。
アリアの手が、まるで吸い寄せられるように伸びた。
そして――その瞬間。
「――ようこそ、探究者よ」
頭の中に直接、“声”が響いた。
次の瞬間、目の前のページがふわりと光った。
まるで、魔法が記憶をたどるように、彼女の中に何かが“流れ込んで”くる。
(これは……! わたし、知ってる……!)
前世の薄くなっていた記憶が、色づき濃さを増してよみがえり……
理屈や理論ではなく、“感覚”として――魔法の本質に、触れてしまったのだ。
「……う、うわぁ……」
ページを閉じるのが、ほんの少し遅かった。
その瞬間――図書室に、緊急結界が発動する。
『禁書の閲覧反応を確認。ロックダウン、開始』
「ちょ、ちょっとぉぉ!? え、なんで!? わたし、鍵とか触ってないのにぃ!」
彼女の叫びは無情にも、重厚な魔力バリアに遮られてしまった。
「――聞いたか!? 図書館から結界反応!」
「アリアだッ!! 間違いないッ!!」
その報を受けて、レイフォード邸と学園を繋ぐ“兄たち専用緊急通信回線”が点灯する。
「迎撃態勢! 緊急召集! レオン、馬車の準備を!」
「ノア兄様、空から行こう! 窓からの突入ルートを確保する!」
「馬鹿な、まさか禁書結界をアリアが起動するとは……!」
「まさかじゃない! 予想されていた想定外だ!」
「つまり日常!」
「つまり出動だ!!」
学園に駆けつけた兄たちは、瞬く間に現場を制圧。
教職員たちは「あ、はい……」と静かに道を開けた。
その頃、アリアは結界内でしゃがみ込み、しくしく泣いていた。
「ち、違うのにぃぃ……わたし、ちょっと見たかっただけで……勝手に本が喋り出して、結界が……!」
「――アリア!」
「兄様ぁあああっっ!!!」
泣きつく妹を、レオンはそっと抱き寄せた。
ノアは結界の魔導式を解析し、解除を始める。
「これは……魔法書そのものに“試練の条件”が埋め込まれてる。選ばれし者にしか反応しない結界だ」
「ということは、妹が“選ばれし者”ってことだな?」
「妹を選んだ本を、褒めてやるべきでは?」
「うん、うちの妹を選ぶなんて、見る目あるね!」
「褒めてる方向が違ううううう!!」
教師たちが駆け寄ってくる頃には、結界は完全解除され、
レイフォード兄たちは、静かにその場を去っていた。
「妹の“知的好奇心”を守るのが、兄の義務だからな」
「図書室ごと買収するか……いや、学園自体が買えるのでは?」
「やめてぇぇぇぇ!!」
その夜。レイフォード邸。
アリアの机の上には、手製の魔導ノートが一冊置かれていた。
中には兄たちが、図書室で起きた事態を“すべて”記録・分析したうえで、再発防止のための魔導式を10パターン書き込んでいた。
「……ええと、“次に禁書に出会ったら落ち着いて3秒待つこと”……?」
「“驚いて叫ばない”こと。あと“兄を呼ぶ”は最優先」
「“読む前に兄に報告”?!」
アリアはぷるぷると震えた。
「……わたし、いつになったら一人で本を読めるようになるのかな……」
そのつぶやきは、小さく、でもどこか誇らしげだった。




