第五十六話 妹を王子が独占!? お兄様たちの“王宮奇襲作戦”が決行されました!!
アリア・リュミエール・レイフォード――初等学園一年生、魔法研究会の副会長。
つい最近までは、目立たず穏やかに学園生活を送りたいと思っていた彼女だが。
「本日もよろしくお願いします、副会長」
「は、はいっ……! で、でも今日はただの調査書類まとめですよねっ?」
「いや、それと……王家文庫にある結界術の古文書も、君と一緒に確認したいと思ってね」
そう、最近、王太子アルヴィン=レグニス・ルシアス殿下との接触が……えらく増えている。
そしてこの日もまた――
王宮の地下、静かな書庫の一角。
アリアと王太子は並んで腰掛け、古文書のページをめくっていた。
「ここの“次元安定式”……僕では読めなかった。けれど君なら、何か感じられるんじゃないかと思って」
「そんな、私なんて……」
(落ち着いて、アリア。これは学術的な話。学術的な話!)
だが、問題はそこではなかった。
――その情報を知ってしまったレイフォード兄ズである。
* * *
「ノア兄様……これは“接触回数が限界を超えた”ってことでしょうか……?」
「もう“接触”じゃなくて“長時間拘束”のレベルだな」
「……つまり、これは――“攫われた”と同義だな」
レオンの言葉に、ノアの眉間がピクリと動いた。
「護衛を突破して王子に接近してる時点で、それはもう“非常事態”だ。……よし、緊急王宮介入、発動だ」
その三十分後。
王宮の正門に、整然と並ぶレイフォード家の執事隊と、護衛騎士団。
「本日は、我がレイフォード家令嬢アリアの“安全確認”のため、視察にまいりました」
「……兄様たち、何してるのぉぉぉ!!?」
◆ ◆ ◆
王宮地下書庫。
アリアが軽く悲鳴をあげた直後、扉が開け放たれた。
「アリア、大丈夫か!? 今すぐここを離れるぞ!」
「レオン兄様!? ノア兄様まで!? ていうか、どうやって入ってきたの!? 王宮だよ!?」
「それは“レイフォード家式・王宮突入ルート”を使えば朝飯前だ」
「そんなものがあるのがまずおかしいのおおぉ!!」
「ご安心を、アリア嬢。お迎えにあがりました」
後ろから、まさかのギルバート執事隊長まで登場。
「この王子殿下に、これ以上近づけるわけには参りませんので」
「ギルバートさん、それ“謀反”レベルの発言ですからあああ!!」
◆ ◆ ◆
そんな混乱の中、肝心の王太子・アルヴィンはというと――
「あの……僕が何か不快にさせてしまったなら、謝罪を――」
「いえ、殿下が悪いのではございません……! ただ、兄様たちが、こう……過剰なだけで……!」
アリアが必死に弁解するも、アルヴィンは微笑むばかり。
「いいや、分かったよ。確かに、君のお兄様たちは――」
王子はゆっくりと立ち上がり、レオンとノアの前に歩み出た。
「……最強の“対王子防衛兵器”だと」
「えっ?」
「は? あ、うん、正しいとは思うけど」
まさかの認定に、アリアは額を抱えた。
「もうっ……これじゃあ“普通に話す”ことすら許されないよぉぉぉ……!」
だが、その一方で。
(アリアの反応を見ていると、心地いいな)
アルヴィン王子は、そんなことを思っていたのだった――。
そしてその夜。
レイフォード家の食卓にて。
「王子との距離感、見直しが必要だな」
「よし、次は“王宮用・兄の着ぐるみ”を作って、常時同行させるか……」
「さすがにそれはやりすぎですうううう!!」
こうして、アリアの日常はまたしても兄たちによって非常事態モードに突入するのであった。
――次回、ますます過保護度アップ!? お楽しみに!!




