第五十四話 妹、まさかの“副会長任命”!? 魔法研究会の王子と共同活動スタート!?
秋の学園では、各クラブ活動が“文化祭”に向けて準備を始める季節。
アリアの通う初等学園でも、さまざまな部や会が活発に動き出していた。
その中でも、ひときわ注目を集めていたのが――
「……魔法研究会、ですか?」
王子・アルヴィン=レグニス・ルシアス殿下が“会長”を務めるという名門クラブだった。
「はい。君に、副会長として参加してほしいと思ってね」
そう言って、アルヴィン殿下は書類をすっと差し出す。
金縁の羊皮紙に、王家の封蝋。どう見ても“断れません”という圧力がにじんでいた。
「え、えええぇ……ちょっと待ってくださいっ。わたし、クラブ活動はまだ――」
「既に教師会と理事会の承認も得ている。もちろん、ご家族にも通知済みだよ」
「そんなぁ……通知!? 兄様たちに!?」
その瞬間、どこからともなく聞こえてくる“爆速足音”。
「アリアァァァァァ!? 副会長って何事だ!!」
「王子と二人で!? ふ・た・り・で!? その肩書き……距離近くなるんじゃないか!?」
教室のドアが開くと同時に、ノアとレオンが突入してきた。
「兄様たち!? 授業中の校舎に何でいるのっ!? ノックもしてないし!!」
「そもそも、妹に副会長職を押し付けようなど、王族といえど容赦は……」
「――ノア・レイフォード殿、レオン・レイフォード殿。校則により、現在は保護者立ち入り禁止時間です」
静かに言い放ったのは、学年主任のリリアナ先生。
「お引き取りいただけますか? 今すぐに」
◆ ◆ ◆
それでも結局、アリアは魔法研究会の副会長に任命された。
活動初日、彼女が案内されたのは、中央塔の上層にある特別室。
「わあ……魔法書、たくさん……」
分厚い魔法書がずらりと並び、天井には星図が描かれている。
机の上には古代語で書かれた魔導理論のメモ、そばには最新型の魔法測定器。
「ここが、僕たちの“実験場”さ」
アルヴィン殿下が、実験台の上にそっと置いたのは――
「魔導水晶……ですか?」
「これは特別なものだ。古代遺跡から発掘された、記録型の高密度魔導石だよ。
君の魔力でどこまで反応するか、調べてみよう」
「……これ、“副会長の仕事”なんですか?」
「そうとも。いや、むしろ“君にしかできないこと”と言った方が正確かな」
アリアは、ほんの少し不安げに魔導水晶へと手を伸ばした。
――そして。
ぱああぁぁあっっ……!!
水晶が眩い光を放ち、室内の魔導器すべてが一斉に反応した。
魔法測定器が狂ったように針を振り切り、天井の星図が淡く輝き始める。
「っ……す、すご……!?」
「やはり……」
アルヴィンは、わずかに目を細めて呟いた。
「君の魔力は、“記録媒体”に影響を与える。しかも高次元で」
「き、記録……? なんですかそれ。魔力って、そんな……!」
そのとき、背後の窓の外で――
「アリアァァァ! その手を放せぇぇえぇ!!」
「水晶に触れるだけで何この惨事!? これは実験じゃなくて事故レベルだろう!?」
兄たちの叫びが、魔法障壁越しに響いてきた。
◆ ◆ ◆
その日の夕食時、レイフォード家では兄たちによる“反省会(という名の妹監視強化計画会議)”が開催された。
「そもそも、王子と二人きりの実験室は危険だ。魔導水晶とか爆発の元だし」
「僕は一週間の間に“王子との接触距離制限法案”を提出する」
「兄様たち、法案って何!? しかもそれ、絶対学園で通らないからね!?」
「……まさか、副会長の肩書きで、アリアが一人歩きするとは……!」
「どんな心配なのそれぇぇぇ!!」
レイフォード家の夜は、今日も平常運転だった――。




