第六話 ──初等魔法演習! “普通にやっただけ”で先生が騒然!?
王立初等学園、飛び級特別聴講生──それが、アリア・リュミエール・レイフォード。
本来なら9歳からの入学が基準だが、彼女は7歳。
いくらなんでも早すぎる、と大人たちが首を傾げる中。
──魔法だけは別だった。
「本日は基本詠唱“ファイア・スパーク”を使って、簡易的な火球を形成してみましょう。焦らず、力を込めすぎず、詠唱を正確に――」
教師が説明を終えると、生徒たちが順に前へ出て、木製の的に火の玉をぶつけていく。
パシュン!
ぼふっ!
ほとんどが小さな火花か、煙のようなもの。
一部の生徒が、ちょっとだけ“ぽっ”と火を灯す程度。
(ふむふむ……このくらいでいいんだ)
アリアは心の中で強く“セーブしよう”と誓った。
なぜなら彼女の“基礎魔法”は――
王都魔術研究院で「高位術の一歩手前」と以前診断されたことがある。
「それでは、アリア・レイフォード嬢」
「はい。……ファイア・スパーク」
彼女が杖を構える。
詠唱は短く、淡々と、だが迷いはない。
(ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ……)
ぽんっ。
その瞬間、空間が一度揺れた。
――ゴォオオォォ!!
轟音とともに、直径2メートル級の炎柱が地面から吹き上がり、木製の的どころか、
的ごと背景の魔法耐久壁まで黒焦げになった。
教室、沈黙。
先生:「…………え?」
生徒:「…………え?」
アリア:「…………あれ? セーブしたのに……」
(えっ、あれで七割減だったのに……?)
先生:「あ、アリア様! 今のは“高位初級術”に分類される出力です!?」
アリア:「へ、えっ……? でもこれは、“ファイア・スパーク”で……」
先生:「ちょ、ちょっと魔力量測り直しましょうか!? ついてきてくださいっ!!」
その後の測定室。
教師陣:「……常人の三倍以上の魔力量。詠唱速度は理論限界付近。制御力は“意図的に出力を下げている”レベル……」
所長:「この子、なんで初等学園に……?」
教師陣:「王族じゃありません……ただの伯爵家の娘さん……」
「“ただの”って言うのやめてください……」とアリアは小声でツッコんだが、
彼らには届かなかった。
その日の夕方、レイフォード家。
ドアが開いた瞬間、二人の兄が飛び込んでくる。
「アリア!! “壁が燃えた”ってどういうこと!?」
「聞いたよ!? 炎柱!! 柱ってなに!?」
「ち、ちがうの! ちゃんと加減したの! してたの! したつもりだったの!!」
「妹がまた“したつもり”で事件起こしてるうぅぅ!!」
「で? 先生はなんて?」
ノアが冷静に尋ねると、アリアはもじもじと答えた。
「“指導方法を個別に変えます。あと、将来的に王立研究院との兼任も検討中”って……」
「……つまり、“この子だけ別枠”認定されたってことか」
「アリアすごーい! って言いたいけど、心臓に悪いよぉ……!」
「……でも、アリアが傷ついてないなら、それでいい。問題はない」
そう言って、ノアはアリアの頭をぽんと撫でた。
レオンも満面の笑みで抱きついてくる。
「今度さ、うちの庭の岩を全部溶かしてみない!? 派手に!!」
「ダメ!! それ怒られるやつ!!」
──こうして、魔法実技の“演習”はアリアにとって、
もはや“災害管理訓練”と化していくのであった。