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第五十三話  妹と王子の“魔法散歩”!? 王太子の野望がちらりと見えました!?

初秋の朝、まだ空気に夏の名残を感じる学園の中庭で、アリアは小さくくしゃみをした。


「へ、くちっ……! うぅ……ちょっと寒いかも……」


制服の上に薄いケープを羽織って、アリアは少し鼻をすすった。

今日は魔法理論の実地学習。

魔法応用における“フィールド観察”の一環で、生徒たちは学園の中庭や温室などに散らばって、それぞれ指定されたテーマに基づいた魔力の流れを観察するという内容だった。


アリアのテーマは――「魔力循環と自然の調和」。


(お兄様たちの付き添いは禁止。先生方の引率だけで、フィールドワークに行くなんて……久しぶり……)


ほんのりとした緊張と、すこしの解放感。

何より“兄フィルター”が外れた時間は貴重だ。


そんな折――


「リュミエール嬢。ご一緒しても構いませんか?」


と、ひときわ柔らかな声がかかった。


「っ、王太子殿下!?」


アリアが振り返ると、そこには淡い銀髪に澄んだ蒼の瞳を持つ少年――王太子アルヴィン殿下が、にこやかに立っていた。


 


◆ ◆ ◆


 


王太子アルヴィン=レグニス・ルシアス殿下。

若干十一歳にして学年首席を維持し続ける天才であり、王位継承第一位の正統なる皇子。

そして、妙にアリアへの関心が強いことで、レイフォード兄弟を日々ざわつかせている問題児でもあった。


「今日は護衛も教師も少ないのですね。これは千載一遇の機会というやつでしょうか」


「え……? ええと……何の、機会ですか?」


「アリア嬢と二人で、魔力の流れについて語り合う、という機会です」


「た、語り合う……!? 詩的すぎますよ、王太子殿下ぁ!」


なぜかしっかりと傘を差し出してくれるアルヴィンとともに、中庭の奥へと歩みを進める。

秋の花が咲くアーチの下。金色と紅葉色の光に包まれた小径。

……まるで絵画のような光景だ。


「……この並木道、魔力の揺らぎが少ないですね。風の属性が安定してるのかな」


「さすが、リュミエール嬢。感覚が鋭い」


「え、いや、そんな……」


そのまま二人は並んで散策を続けた。

魔力の流れ、精霊の気配、属性の偏りなどを語り合ううちに、アリアも徐々に肩の力を抜いていった。


だが、その穏やかな時間の最後――


アルヴィンは、ふと立ち止まり、小声で囁いた。


「アリア嬢。僕は……あなたに興味があるのです。ずっと、ね」


「……え?」


「あなたの魔力量。発動の安定性。そして、前回のあの……“神獣騒動”。」


アルヴィンの瞳は、まるで硝子の奥にある炎のように揺れていた。


「もしよろしければ、今後……僕の研究に協力していただけませんか? 国の未来を共に考えるために」


「そ、それって――」


まるで政略的な“プロポーズ”のようなその台詞に、アリアの頬が思いきり赤くなる。

 


◆ ◆ ◆


その数秒後。

中庭の大木の影で、金髪の貴族兄弟が双眼鏡を構えながら激震していた。


「な、なんてこった……王太子がアリアと二人きりで……!!」

「い、いや、平静を装え……会話内容を思い出せ……“研究”だ、“協力”だ……」


「“未来を共に”とか言ってたぞ!? プロポーズじゃないかああああ!!」


ノアとレオンが同時に立ち上がり、わたわたとマントを翻す。


「待て、冷静になれレオン! 王太子はまだ11歳だ!!!」

「だが恋愛は年齢ではない!!」


「ああもう! 次は絶対、立ち聞きじゃなくて割って入る! “兄の挨拶”という名の強制介入だ!!」

 


◆ ◆ ◆


後日、アルヴィンから“研究提案書”なる正式な書簡がアリア宛に届く。

その内容は――


『アリア・リュミエール・レイフォード嬢へ

王政魔法研究会・副会長アルヴィン・セレニアより

研究主題:大魔力持ちの魔力制御の事例研究』


堅苦しいが、どこか浮ついて見えるその文面を読みながら、アリアはため息をついた。


「なんでみんな、わたしを巻き込むの……?」


その手紙を見つけた兄たちは、次の瞬間、手紙を奪い合い、何故か“対抗書簡”をしたため始めることになる。


(※王子殿下、護衛つきで「兄様方からの正式な返答」が直送されたとか……)


 

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