第五十一話 妹、“魔法の実技演習”でまさかの召喚成功!? 学園中がざわつく非常事態に!!
初等学園・魔法演習の日。
今回の授業は、“契約魔法”――特定の精霊や動物型魔力体との「召喚契約」がテーマだった。
「ただし! 本日の演習は“あくまで擬似召喚”です。うっかり“本物”を呼び出したりしないように!」
教師リリアナの忠告に、生徒たちは一斉にうなずいた。
「うわぁ……緊張するぅ……」
アリアも、手元の魔法陣の上で小さく深呼吸をする。
(でも大丈夫、ちゃんと練習してきたし……)
目を閉じて、魔力を静かに循環させる――。
(優しい心で、呼びかけるの。お願い、来てください)
光が、ぽうっと魔法陣から立ち上がる。
周囲がざわめき始めた。
「え、なんか……魔力反応、強すぎない!?」
「ちょっと待って、あれ……本物じゃない!?」
次の瞬間。
光の中から現れたのは――**金色のたてがみを持つ巨大な獣(しかも喋る)**だった。
「主よ。汝が呼びしは我なり。“森の守護獣・エルダリオン”、この名にかけて誓おう」
「ええぇぇぇえええ!?」
アリアの悲鳴とともに、教師陣は一斉に立ち上がり、警備魔法が自動発動。
騎士団に連絡が入ったのは、その30秒後のことだった。
◆ ◆ ◆
「ま、待ってくださいっ。これは私、ただの“擬似召喚”をしようとしただけで――!」
「でも、アリアさんしか呼べてません!! 他の生徒、みんな“魔力漏れのぬいぐるみ”しか出てないのに!」
生徒の一人が指差した先では、ふわふわのぬいぐるみ型モンスターたちが、お菓子をつまんでいた。
一方、アリアの隣には――
「我は契約に従い、汝を守る。異なる次元であろうと、この誓いは不変なり」
という、中二病っぽいセリフを真顔で語る獣(しかも聡明そう)。
「え、ちょ、帰ってください!? 私、そんなつもりじゃ――!」
「ふむ。ならば一時、契約の“休眠”としよう。いずれ再召喚を願う」
そして、自分で魔法陣を描いて帰っていった。
「……アリア様、何者……?」
教師陣の全員が、軽く震えていた。
◆ ◆ ◆
帰宅後。
当然、兄たちは騒然。
「アリアが“異世界クラス”の召喚をした!?」
「教室にいた教師の魔力反応、全員“絶句”レベルに跳ね上がっていたらしい……!」
父アレクシスは冷静に紅茶を飲みながら言う。
「……本格的に“王家”の耳にも入る頃かもしれんな」
「いや、まずそこより、学校側が次に何をアリアに頼んでくるかだ。もはや“特別講師”扱いになる可能性がある」
「その前に、魔法省が“精霊契約適正検査”を依頼してくるはずだ」
――などと、
家族全体で国家規模の未来をシミュレーションしていた。
アリア本人はというと、ソファで丸まっていた。
「うぅぅ……また“目立っちゃった”……」
◆ エピローグ ◆
翌朝。
登校したアリアに、生徒たちが駆け寄ってきた。
「アリアさん!」
「すごかったよ昨日の召喚!かっこよかった!」
「もしかして、“精霊使いの逸材”ってアリアさんのことだったんじゃ――」
「ち、ちがうよぉぉぉ! わたし、ただ“ぬいぐるみ”呼びたかっただけなのぉ!!」
頬を真っ赤にして逃げるアリアの背中を、子犬型ぬいぐるみモンスターが嬉しそうに追いかけていった。
だが、生徒たちはもう知ってしまった。
――この初等学園に、“世界のどこかに呼ばれるべき逸材”が存在しているということを。
その名は――アリア・リュミエール・レイフォード。
彼女の“目立ちたくない日々”は、もはや幻想と化していた――。




