第五十話 妹、秋の芸術祭で演劇デビュー!? 台本改変で“全員アリア主役”状態に!?
秋――それは、芸術の季節。
初等学園でも年に一度の大イベント、「秋の芸術祭」が迫っていた。
学園の中庭には舞台が設けられ、生徒たちは絵画、音楽、魔法工芸、そして……演劇と、思い思いの表現に打ち込んでいた。
そして。
「アリアさん、ぜひ主演をお願いしたいのです!」
クラスの劇に出る気はまったくなかったアリアの前に、脚本係のルーナが食い気味でお願いしてきた。
「え、ええっ!? わたし、そんな目立つのは……!」
「でも、アリアさんがぴったりなんです! 小動物と会話できて、魔法も使えて、心優しい少女――そう、“森の精霊姫アリエル”役は、あなた以外に考えられませんっ!!」
「森の……姫?」
まんざらでもない顔で鏡を見つめるアリア。
――だが、この時の彼女はまだ知らなかった。
この劇が、兄たちの過保護センサーを全力で刺激する“きっかけ”になることを……。
◆ 台本問題発生!? ◆
翌日。台本の読み合わせを終えた瞬間。
「アリアさん、セリフが……少ないですね?」
「……あれ? 本当だ。精霊姫なのに、セリフが“ようこそ”と“ありがとう”しかない……」
しかも、その後は“眠る”という演出で、物語の終盤まで出番がない。
(ま、まぁいいか……セリフ少ないほうが緊張しなくて済むし)
アリアは気にしない様子だったが、それを影で聞いていた者がいた。
兄・ノア(19歳)と兄・レオン(17歳)である。
「……妹の出番が少ない?」
「ふむ……これは“脚本上の不備”だな。修正が必要だ」
その晩、学園の演劇指導教員に「脚本再構成案(全34ページ)」が匿名で提出される。
表紙にはこう書かれていた――
『精霊姫アリエルと、彼女を守る12の騎士たち~世界を救う伝説~』
◆ リハーサル騒動 ◆
数日後、稽古中の生徒たちがざわついた。
「な、なんか台本、めっちゃ厚くなってない!?」
「え、アリアさんの出番、最初から最後まである……!?」
さらに、舞台裏では謎の「大道具増強班」「衣装改良班」が動き出していた。
「アリア様のドレス、もう少し“風を受けてきらめく仕様”に変更しよう」
「背景は森から天空神殿へ。もちろん飛行魔導演出つきで」
その様子を見た教師は震えながら言った。
「誰がここまで……あ、レイフォード家か……なるほど」
◆ 本番当日、観客騒然 ◆
芸術祭の当日。観客席には保護者たちの姿もちらほら。
もちろん、レイフォード家からも――
父アレクシス、お母様、そしてノアとレオンが、
それぞれ「高精度望遠魔導双眼鏡」を持って最前列に陣取っていた。
幕が上がる。
アリアの演じる“精霊姫アリエル”が登場した瞬間、照明魔法が彼女を柔らかく包む。
「ふわぁ……アリア様、天使……!」
「台詞の“ようこそ”がまるで神託のように……!」
しかも劇中で登場する“12人の騎士”のうち、半分以上が――
「アリア様を守るために我が命を捧げる所存!」
「姫の笑顔、それが我が勇気の源!」
明らかにアリアを崇拝している設定に改変されていた。
観客(主に母親層)の中から「尊い……」「私も姫に仕えたい……」などの声が漏れ出す中、
教師陣は全員、台本の最後のページで目を疑った。
**「完」**の下に小さく添えられていたのは――
《原案協力:レイフォード家》
◆ 終演後のアリアのつぶやき ◆
「わたし、確か“ちょっとセリフあるだけ”って聞いてたんだけどなぁ……」
「なのに気づけば、最初から最後まで出ずっぱりで、背後に風が吹いてて、最後に玉座で微笑んでた……!」
楽屋の鏡に映るアリアは、きらきらのドレスに身を包んだまま、
ぽかんとした表情をしていた。
こうして、アリアの“芸術祭デビュー”は、見事に“レイフォード劇場”と化し、
初等学園史上、最も“姫感あふれる演劇”として語り継がれることとなったのだった――。




