第四十八話 妹の“お料理再挑戦”!? でも兄たちが“厨房魔導結界”を張って出禁にされた件!!
朝晩の空気に秋の気配が混じり始めたある日。
アリアはダイニングテーブルの上に広げたレシピ帳を、真剣な表情で見つめていた。
「……今日は、ちゃんと自分の手で作ってみたいな」
前回の“初お料理”では、兄たちに味見されるわ、父様に「萌え萌えキューン」してしまうわで、騒動になったのは記憶に新しい。
でも――今回は違う。
今度こそ、落ち着いて、ちゃんと“家族に食べてもらう料理”を作ってみたい。
「よし……誰にも言わずに、朝早くからこっそり準備しよう!」
アリアは決意を固め、そっとレイフォード家の厨房へと足を踏み入れた。
だが――。
「…………え?」
そこには、透明な光の壁が張り巡らされていた。
「魔導結界……!?」
よく見れば、扉には豪奢な金色の札が貼られている。
そこには、こう書かれていた。
《厨房封鎖中・魔導結界展開済/関係者以外立入禁止(妹含む)》
「って、わたし名指しぃぃぃぃ!?」
その直後。
「おはよう、アリア。厨房に向かったって聞いたけど、なにか用かい?」
ノア兄様が、まるで“待機していた”かのような速度で現れた。
「ちょっと、お料理を……したかっただけなのにぃ!」
「……あの騒動を、もう一度繰り返すつもりか?」
「ちがうもん! 今回はちゃんと、手順も調べて、前日に食材も――って、あれ、食材なくなってる!?」
「すべて、念のため“兄管理下”に移動済みだ」
「そんなの、どんな緊急事態対策ぅぅ!?」
その日の昼下がり。
アリアはついに“別ルート”からの料理チャレンジを試みる。
すなわち――
「エマの家に行って、キッチン借りちゃおう作戦!」
「すごく地味だけど、これならバレない……はず……」
エマの家の別邸は、アリアが以前お泊まりした場所でもあり、使用人たちも彼女には慣れていた。
「ようこそアリアちゃん。キッチン、使っていいってママが」
「ありがとう、エマ!」
早速エプロンを着け、フライパンを手に取った瞬間――
「……魔力反応、外部から接近中」
「なにこれ! 護衛用の魔導石が反応してる!? まさか――」
次の瞬間、扉が開かれた。
「アリアァァァァ、やはりここか!」
「気配が途絶えたと思ったら、まさか別邸へ移動していたとは……!」
ノア兄様とレオン兄様が、完全武装で乱入してきた。
「兄様たちぃぃぃぃ!! なんで追ってくるのおおお!!?」
「料理とは火を使う行為。すなわち危険! 万が一、ナイフで手を切ったらどうする!?」
「じゃあ料理全部ダメってことじゃん!!」
エマはもう「またですか……」という顔で紅茶をすすっている。
最終手段に出たアリア。
「もうっ……いいもん。森の中で、バーベキューするもんっ!」
「なんだその発想!? でも面白そう! やってみたい!」
エマとカレン(最近仲良くなったクラスメイト)とともに、郊外のレイフォード家管理の森へと向かう。
「今度こそ、誰にも邪魔されずに……!」
「では、まず火を……」
「魔導コンロも持ってきたし、あとは具材――って、あれ? 焼くものが……ない!?」
「アリア様! 焼く前に検品を……と、すべてお預かりしております!」
「なんでまたあああああ!!?」
崖の上には、護衛隊+兄二人の姿。
「自然の中だからこそ、慎重さが必要なんだ。たとえば――毒草との誤認、食中毒のリスク……」
「これは“妹の安全のための料理禁止法案”だな」
「制定されてないからね!? 今その場で作らないで!!」
結局、アリアは兄たちの大包囲網のなか、またしても“自分の手で料理を作る”という夢を断たれてしまった。
レイフォード邸のディナー時。
使用人が完璧に作り上げたフルコースを前に、アリアはすねた顔でスープをすする。
「……いつか絶対、わたしの手料理を食べさせるんだから」
その小さな決意を聞き取った兄たちは、ふと顔を見合わせ、笑みを浮かべた。
「……そのときは、食前にまず“試食用人形”に味見をさせよう」
「安全確認を三段階に分けて……最終段階で俺が食べよう」
「それ、わたしが作った意味あるぅぅ!?」
こうして、アリアの“再挑戦料理作戦”は、またしても兄たちの過保護で失敗に終わったのだった。




