第四十七話 妹の“読書感想文”に家族全員が全力!? レイフォード家、またしても大騒ぎ!!
秋も深まり、学園では授業の一環として“読書感想文”の課題が出される季節となった。
「はい、それでは課題の発表です。今月末までに、好きな本を一冊選んで読んで、それについて感想を書いて提出してもらいます」
リリアナ先生の落ち着いた声が教室に響き、生徒たちがざわめいた。
「えぇー、また感想文ー!?」
「前もやったじゃん!」
「でも今回は“発表付き”って聞いたよ」
「発表付きぃぃ!?」
アリアは思わず声をあげてしまった。
それを聞いたエマが苦笑しながら肩をすくめる。
「まあでも、アリアちゃんのことだから、どうせすっごく丁寧に書いちゃうんでしょ?」
「え、えぇと……たぶん……図書委員だしぃ読書好きだしぃぃ……」
(でも、発表って……やっぱり目立つ……!?)
その日の夕方。
アリアが机に向かって、読みかけの物語本を開いていたそのとき。
「アリア、読書感想文の宿題が出たんだって?」
ノア兄様が、すっと入ってきた。
「あ、うん。でも今はまだ何を読むか迷ってて……」
「そうか。なら、まずはこの候補を見てみるといい」
そう言って差し出されたのは――
山積みの推薦図書リスト。しかも巻物。長っ!!
「“貴族たる者にふさわしい書物選”!? なにこのジャンル!?」
「父様監修だ。幼い頃から叩き込まれていたであろう、格式高き文学の数々を並べてみた」
「えっ、これ感想文じゃなくて論文になるやつじゃない!?」
そこへレオン兄様もやってきた。
「アリア、感想文は感情の表現が大切だ。お前がどう感じたか、どう心が動いたか……」
「う、うん」
「そこで、俺が読んで泣いた作品を貸そう。これだ」
差し出されたのは――
『忠誠と別れの風』。厚さ800ページ
「分厚すぎィィィ!!」
「だが、ページをめくれば止まらなくなるぞ。三夜連続で泣いた」
「兄様、それ徹夜のパターンだよね!? 小学生の課題だよね!?」
その夜。レイフォード邸の書斎では、家族会議が開かれていた。
「アリアの感想文に最適な一冊を選出するには、我々の英知を結集すべきだ」
「まず“文学性”と“教育的価値”は必要不可欠だな」
「待て、感想文で求められているのは“感じたこと”だ。つまり“泣ける系”も重要だ」
「……これって、アリアが選ぶんじゃないの?」
リビングで紅茶を片手にくつろいでいたアリアは、ひとりツッコミを入れた。
(なんで家族が“文学選定会議”を始めてるの……?)
そして翌日。
アリアはいつもの、学園の図書館に足を運んだ。
(やっぱり、自分で選びたい)
静かな読書室の片隅。
彼女が手に取ったのは、短編集の『光とあめ玉』。
優しい文体と、どこか懐かしい日常。
子どもの視点で描かれる小さな奇跡と別れ。
(これ……好き)
その日の帰り道、アリアは兄たちに宣言した。
「兄様たちのおすすめ、どれもすごく良かったけど……やっぱり自分で選びたいな」
レオンもノアも、一瞬だけ驚いた顔をしたが、やがてゆっくり頷いた。
「……そうか。なら、それを全力で支援する」
「えっ、どこから全力なの?」
「感想文の構成案を10パターン、今夜用意しておく」
「それって自分で考える部分じゃないのぉぉ!?」
数日後。
アリアは自室で、真剣な表情でペンを走らせていた。
“泣ける”“笑える”ではなく、どこか心があたたかくなる物語。
そんな本を選んだ自分の気持ちを、少しずつ言葉にしていく。
そして――
「できた……!」
その原稿用紙を読み終えたノア兄様は、そっと涙をぬぐった。
「……感情が、丁寧に書かれている。素晴らしい」
「え、泣くとこじゃなかったと思うけど!?」
レオン兄様も口元をほころばせながらうなずく。
「アリア、お前はもう“自分の言葉”を持っている。誇らしいぞ」
「……えへへ、ありがとう……!」
(たぶん、あの時自分で選んだからこそ、こんな風に書けたんだ)
そして発表当日。
教室の前に立ったアリアは、少しだけ震える声で、自分の書いた感想を読み上げた。
「――私は、この本を読んで、今ある“あたりまえ”が本当はすごく大切なものだと感じました……」
発表が終わると、クラスメイトたちから温かい拍手が沸き起こった。
「アリアちゃん、すごい感動した!」
「うんうん、涙ぐんじゃったよ~」
教室の扉の外では、こっそり覗いていた兄たちが――
「……ふ、成長したな」
「次の課題は“詩作”と聞いた。よし、韻文指南書を用意しよう」
「だから過保護に戻るの早すぎィィ!!」
こうして、アリアの“読書感想文騒動”はひとまず終わりを迎えたのであった。




