第五話 ──二人目のお友達!? でも“兄公認”じゃないと話せません!?
入学から一週間が経ったころ。
アリアはだいぶ学園の雰囲気にも慣れてきていた。
「アリアちゃんっ、今日の詠唱すっごく綺麗だったね!」
「ありがとう、エマちゃん」
第一の友達・エマ・ハートとは、今ではほぼ毎日一緒にお昼を食べている仲だ。
(エマちゃんは本当にいい子……私が“特別聴講生”って呼ばれても、変に持ち上げたり避けたりしない)
そんな日々の中で、もう一人。
新たに声をかけてくれた子がいた。
「えっと……アリアさん。お隣、いいかな?」
その日、お昼の時間にそう言ってきたのは──
リリィ・クロフォード。栗色の髪に、小さく結んだリボン。
静かな印象だけど、目を合わせればまっすぐこちらを見てくる勇気がある。
「うん、いいよ。一緒に食べよう?」
エマもにっこり笑って「新しいお友達だねっ」と歓迎してくれて、
三人でのお昼が始まった。
話してみれば、リリィは動物が好きで、特に猫が大好き。
魔法の実技は苦手だけど、歴史の成績はかなり良いらしい。
(わたしと少し似てるかも……)
そう思って、アリアは自然と会話に笑みが増えていた。
が、その日の夜──
「──で、今日ね。リリィちゃんって子とお昼食べたの。優しくて、真面目な子だよ」
夕食後、アリアがそう言うと。
「……リリィ・クロフォード……?」
ノア(14歳)は静かにフォークを置いた。
隣でパフェを食べていたレオン(12歳)は、口の中のアイスを一瞬で溶かした勢いで言った。
「なにそれ!? 二人目!? 新しいお友達!? どんな子!? どんな声!? どんなお弁当!?!?」
「いやそこ最後関係ないから!?」
アリアは慌てて手を振ったが、すでに遅かった。
「クロフォード家……準男爵。王都の騎士団付き官吏の家系だな。最近領地は整理統合され、王都へ移住。父親は現・記録官」
ノアの口からすらすらと出てくる家系調査。いつやったのか聞くのが怖い。
「ちなみにお姉ちゃんが婚約破棄されたって噂が──」
「それは関係ないっ!!」
アリアはさすがに声を上げた。
レオンは「ごめんごめん」と謝りつつ、手元のメモ帳に何やら書き込んでいる。
「お弁当の中身が安定してれば、家庭環境も整ってる証拠になるっていうし──」
「だからお弁当見るのやめてぇぇぇ!!」
次の日。教室では。
「アリアちゃん。リリィさんって、昨日言ってた子?」
「うん、エマちゃん。今日も一緒に食べようって」
にこにこしながら机を並べる三人。
──しかし、その穏やかな空気の背後で、何かが「じぃぃ……」と光っていた。
「……あの、アリアちゃん。窓の外に……誰かいるような……?」
「見ないでっ!! 目を合わせたら負け!!」
なんと、兄レオン、木に登って監視中である。
制服に似せた灰色のマント、帽子、目深の影。だが完全に不審者。
「にゃにゃにゃ、にゃんぱすぅ……(←監視中の合図らしい)」
「バレてるわよ!? 語尾の癖が強すぎる!!」
放課後、学園の門の前。
「アリア様。こちらに、ノア様より“交友状況確認報告書”をお預かりしております」
「報告書……っ!?」
差し出された封筒には「交友安全監査部(ノア私設)」の印が押されていた。
中には──
『リリィ・クロフォード嬢について:
・現在の言動に問題なし。学力成績、振る舞い共に礼儀正しい。
・家族構成、交友関係も安定。アリアとの接点においても不自然な意図なし。
結論:兄公認“第二友達”とする。』
「……ありがとう、ノア兄様」
笑いながら小さく呟いたその声に、周囲の使用人たちはにこやかにうなずいた。
(でも、できれば“監視しない”方向でお願いしたい……)
夜。レオンの部屋。
「よーしっ、第二友達まで公認っ!! 目指せベストフレンド百人っ!!」
「それ、アリアが疲れ果てるやつだからやめて」
ノアが即ツッコミを入れたが、兄たちの“友達審査制度”は、
まだまだ続くのであった──




