夏休み特別編 夏の終わりは仮面舞踏会!? アリア、きらめきの仮装デビュー!!
夏の終わりが近づくある日、王都では年に一度の祭典――“星の夜祭”が開催されると発表された。
街中が浮き足立つこの大イベントの締めくくりは、貴族限定の仮面舞踏会と、魔法で彩られた大花火大会。
アリアも、ついにこの煌びやかな舞踏会に招待されたのだった。
「仮面舞踏会……まるで絵本みたい……!」
そう呟いた彼女を見て、リリアナ先生は目を細めて頷いた。
「貴族令嬢としての初舞踏会ね。レイフォード家のご令嬢として恥じない装いで行きましょう」
だがその知らせを受け取った兄たちの反応は、当然ながら――
「護衛体制を再確認だ」
「仮面の中には変装もある。スキャン魔法を導入しろ」
「ちょ、舞踏会だよ!? 武闘会じゃないの!!」
当日。ドレスルームには、豪華絢爛な仮装衣装が並んでいた。
アリアが選んだのは、夜空のような深い藍色に、星屑の刺繍が散りばめられたドレス。背中にはふわりとしたシフォンのケープ、そして銀のレースで編まれた仮面。
「うわぁ……本当に、お姫様みたい……」
鏡の中の自分を見て、思わずため息が漏れる。
そのころ隣室では、兄たちが“仮装という名の戦闘用防護服”を試着中だった。
「このマント、魔法防御値はどうだ?」
「毒物センサーは仮面に仕込んである。音声増幅も搭載済みだ」
「誰がそんな重装備で踊るのよぉぉぉ!!」
会場の王立魔導劇場前広場は、無数の魔法灯と花の飾りで彩られ、人々が色とりどりの衣装と仮面で集まっていた。
音楽の旋律が広場に響き、仮面の踊り手たちが静かにステップを刻む。
アリアは緊張しながらも、招待者の列に並び、入場を果たした。
「……わぁ」
彼女の姿に、瞬く間に周囲の視線が集まった。
“月光の姫”――誰かがそう囁いた。
そのとき。
「君の仮装、素敵だね」
振り返ったアリアの目に映ったのは、銀の仮面をつけた年の近い少年。
深い紺のマントを羽織った彼は、どこか見覚えのある雰囲気を漂わせていた。
「ありがとう……あなたのも、かっこいい」
「一曲、お相手してくれる?」
少年が手を差し出し、アリアは思わず頷いた。
流れるワルツの調べ。人々の輪の中で、ふたりは静かに踊り始めた。
まるで夢のような時間。
だが――
「レオン隊、踊っているのは誰だ!? 顔の照合急げ」
「ノア隊、仮面の下の素顔を魔力分析中! 侵入者の疑いあり!!」
「うああああぁぁ!! 恥ずかしいからやめてぇぇぇぇ!!」
兄たちの“舞踏会用緊急護衛網”が水面下でフル稼働していた。
舞踏会も終盤を迎えた頃。
魔導楽団の演奏が止まり、夜空に第一発の魔法花火が上がる。
「……きれい……!」
アリアが思わず目を見張ったその瞬間。
銀仮面の少年が、ふっと笑って言った。
「今夜は……ありがとう。おかげで、ずっと夢に見ていた舞踏会になった」
「え……?」
次の瞬間、少年は群衆の中に姿を消していた。
アリアは思わず追いかけようとしたが――
「アリア!! 無事か!? 花火の爆音で混乱が起きてないか!?」
「もうやめてぇぇぇええ!!!」
帰り道。
アリアは馬車の中で、そっと仮面を見つめていた。
「……名前、聞けなかったな」
仮面舞踏会で出会った不思議な少年。
そして、初めての“ちょっぴり恋のような”高鳴り。
だが、兄たちはこの一夜で「舞踏会禁止令」を家に持ち帰ることとなり、
来年の出席はすでに“要検討”と記されたのであった――。




