夏休み特別編 妹、海でリゾート!? でもクラーケン襲来で兄たちが大暴れ!!
王都の喧騒からしばし離れ、アリアは家族と共に南方の海沿いリゾートへ。青い空、白い砂浜、透明な海……心がほどけるような景色に、彼女は思わず目を細めた。
「すごい……これが海……」
砂浜を裸足で走り出したアリアの足元に、波が優しく寄せては返す。海風に金の髪がふわりと舞い、まるで絵画のような光景だった。
だが、その背後――
「アリアー! 浮き輪の魔導結界、起動確認完了だ!」
「海水成分スキャン完了! 異常なし!」
「水着に仕込んだ耐魔フィルムも良好だ!」
レオンとノアが、まるで戦場のごとく浜辺に陣を敷いていた。周囲にはレイフォード家専属の水魔法使い部隊が待機し、天候操作魔術師が日差しを“ちょうどいい雲”で調整中。
「お兄様たち……バカンスって、もっとこう……のんびりするものでは……?」
「のんびりするために、万全の準備が必要だ」
「最悪の場合、瞬間転移で避難できるようゲートを設置してある」
「最悪の想定、なに!? クラーケンでも来るの!?」
と、その時。
海が……泡立った。
「アリア、下がって!」
レオンの声と同時に、水面から巨大な触手が突如現れた。浜辺にいた人々が悲鳴を上げて逃げ惑う中、兄たちは即座に対応へ。
「本当に来たあああああああああ!?」
触手を振り上げる巨大クラーケン。それに対し、ノアが高出力魔導砲を展開。
「海難警報発令。撃退行動を開始する」
レオンは砂浜に魔法陣を描きながら、冷静に妹へと叫ぶ。
「アリア、浜辺から離れていろ!」
「了解……じゃなくて、兄様たち! これって普通の海水浴じゃないよね!?」
やがて轟音とともに、空を裂くような光の矢が放たれ、クラーケンの触手を一撃で打ち抜いた。続いて放たれた魔法の鎖が、魔獣の動きを封じる。
「ターゲット拘束完了。あとは……」
「焼き上げるだけだ」
レオンとノアの連携によって、海は再び静けさを取り戻した。
◆ ◆ ◆
その夜。
「……で、クラーケンの足はこうやって焼くと美味しくてな」
「お兄様たち……食べてるし!!」
海辺のBBQテラスで、兄たちは満足げに焼き上がったクラーケンの脚を頬張っていた。
「アリアも食べるか? 新鮮だぞ」
「遠慮しておくよ!? 食欲より現実感が勝ってるから!!」
こうして、“ただの海水浴”はレイフォード家によって伝説級の討伐戦となり、地元の漁師たちから「海の守護者」として称賛される結果となった。
アリアはというと……
「……あのね、普通の夏の思い出がほしかっただけなんだよ」
呟きながら、彼女は再び波打ち際へと歩き出した。空には満天の星、潮風はどこまでも優しくて――
……背後から、また魔導スキャンの音が響いた。
「兄様たち、ほんと、どうにかしてえええええええ!!」




