第三十七話 妹の“初めての自由時間”に兄たち大混乱!? どこ行った!? 何してる!?
「……アリアが、いない……?」
屋敷の書斎で報告を受けたノアの目が鋭く光る。
「使用人全員に確認したが、誰も居場所を把握しておりません」
その報告に、弟のレオンが顔面蒼白になる。
「庭にもいない!? 魔力量検知でも反応なし!? これは……っ、緊急事態だ!!」
レオンが即座に“妹捜索作戦”を発動。
兄たちの手によって、使用人総動員の“捜索網”が展開された。
◆ ◆ ◆
その頃――。
アリア・リュミエール・レイフォードは、屋敷の一角にある“魔力遮断の浴室”で、のんびりと湯に浸かっていた。
(ふぅ……やっと一人になれた気がする……)
「静かで……誰も入ってこないって、いいなぁ……」
湯気の中で、アリアは小さく笑った。
彼女はテストが終わった今、たった一時間だけ与えられた“自由時間”を、自分だけのリラックスタイムに使うことに決めていたのだった。
◆ ◆ ◆
その間も屋敷では――
「魔導通信にも反応がない! 通信障害か!? 誘拐か!? いや、まさか逃走!?」
ノアが冷静な顔で怒涛の仮説を立てる。
「誰かアリアの部屋の窓から抜け出た痕跡を調べろ!」
レオンは剣を腰に、今にも家を飛び出しそうだった。
「いま一度、使用人全員の足取りを調べなおせ! 魔力量記録も全館スキャンだ!」
リリアナ先生から届いたばかりの“自由行動時間推奨”の手紙を握りしめながら、ノアはひとつ深いため息をつく。
「まさか、こんな簡単に姿を消すとは……」
◆ ◆ ◆
そして、三十分後。
アリアはすっきりした顔で廊下に戻ってきた。
「はー……気持ちよかった……ん?」
廊下には、使用人たちが緊張した面持ちで列をなし、ノアとレオンが鬼気迫る顔で立っていた。
「……アリア! どこに行っていた!?」
「い、生きててよかったあああああああああ!!」
アリアが目をぱちくりとさせて言う。
「え? お風呂……行ってただけだけど……?」
「なんで言ってくれなかったんだああ!!!」
レオンが涙目でしがみついてくる。
「ちょっとくらい、自由時間……って先生から言われたし……」
「自由とはいえ、報告なしで消えるのは重大事だ! 屋敷全体を混乱に陥れることだって……」
ノアは手帳に“魔力遮断領域の使用は事前申請制”とメモを加える。
「そんな……ちょっと静かにしたかっただけなのに……」
アリアはしょんぼりとしつつも、兄たちの“過剰反応”に慣れつつある自分を自覚する。
「……次からは、お風呂でも報告入れるね」
「必ずだぞ!」
◆ ◆ ◆
その夜。
アリアは日記帳にこう書いた。
『今日、はじめての“自由時間”を過ごしました。でも、報告しなかったら屋敷が大騒ぎになってしまいました。私は、たまには静かに過ごしたいだけなのに……。でも、お兄様たちは本気で心配してくれたみたい。ちょっと、嬉しかったです』
ペンを置いて、彼女はぽつりと笑う。
「……次は、こっそりじゃなくて、一緒に静かな時間を作ってもらおうかな」




