第三十五話 妹の“テスト週間”に兄たちが動く!? 過保護すぎる対策講座が始まりました!!
春の陽気もどこへやら、学園では“定期確認テスト週間”が始まっていた。
初等部一年生といえども、魔法理論・魔力制御・魔導具知識・貴族学など多岐にわたる分野での筆記や実技が課される。
アリア・リュミエール・レイフォードは、その朝――自室のベッドでぼんやりと目を覚ました。
(今日はちょっとゆっくり寝よう……昨日、授業で“先生役”やったし)
そう思ったその瞬間だった。
「アリア、起きろ! 朝の魔法理論講座が始まるぞ!!」
「えっ……まだ、夜明け前……?」
「違う! すでに五時十五分だ!」
ノアがシャツとベスト姿で入ってきて、机にプリントとペンを用意している。
「では第一問。“魔力の定常波”について簡潔に説明せよ」
「ひぃぃぃ……」
◆ ◆ ◆
一階のホールでは、レオンが魔力調整ヨガのマットを敷き詰めていた。
「アリアー! 朝の身体ほぐしタイムだよ! 魔力の流れは筋肉から! さ、深呼吸っ!」
「うう……お兄様たち、どうしてそんなに気合い入ってるの……?」
「当然だ! 君が“飛び級聴講生”である以上、他の子たちより出来て当たり前という空気がある!」
ノアが理論的に語る横で、レオンは笑顔で彼女の頭を撫でる。
「プレッシャーなんて感じなくていいよ、アリアはアリアらしく。けど、全力でサポートするからね」
◆ ◆ ◆
その後もスケジュールは容赦なく続いた。
・朝六時 詠唱訓練(短詠・中詠・連続詠唱)
・朝七時 記述演習(魔導具構造記述式)
・朝八時 テスト範囲の復習まとめ演習
「ふぇぇ……まだ朝の授業が始まってないのに……体力がぁ……」
アリアはぐったりとソファに倒れ込みながら、ブランケットに包まっていた。
「まだまだこれからだ」
ノアは淡々と次のテキストを広げる。
「お兄様……その熱意、ちょっとだけ緩めても……?」
「甘やかしてはならん。お前の未来のためだ」
「でも、この“未来”って、私の意志より兄たちのスケジュールで動いてる気が……」
「気のせいだ」
レオンが爽やかに言い切る。
◆ ◆ ◆
放課後、アリアは学園の自習室にいた。
目の前には分厚いノートと色とりどりのペン。
その横では、リリィとエマが羨ましそうにのぞきこんでいた。
「アリアちゃんって、ほんと字が綺麗で図も上手よね……」
「しかも色分け完璧! それってもしかして、お兄様方が?」
「うん……一ページ書くごとに、“ここは見やすくまとめること”って三回くらい言われて……」
「過保護っていうか、もはやプロ講師じゃない?」
「レオンお兄様は“音読は心を育てる”って、毎晩読み聞かせしてくれるし……」
「それ幼児教育の頃から変わってないのね!?」
◆ ◆ ◆
そして、テスト当日。
教室に入るアリアの後ろ姿は、なぜか背筋が伸びていた。
(あれだけやったんだもん……大丈夫)
心配と緊張はある。けれど、ノートを見返すだけで、兄たちの顔が浮かぶ。
(ノアお兄様の厳しすぎる理論指導……レオンお兄様の癒しマッサージとお菓子支援……)
「うん、頑張ろう!」
そして、教室内。
「アリア・リュミエール・レイフォード、答案提出します!」
先生が笑顔で受け取り、目を通すと、少しだけ目を見張る。
(なんて整然として、深い内容なの……七歳の答案とは思えない)
アリアは、にっこりと笑って席に戻った。
ノアとレオンの兄バリアは過剰だったけれど――その愛と努力は、ちゃんと実を結んでいた。




