第三十四話 妹がまさかの“師範代”に!? 魔法演習で先生代理を頼まれた結果――!?
その日、初等部の魔法演習はいつもとは違う空気に包まれていた。
「皆さん、急なお知らせですが……本日、担当のヴァリック先生が急病でお休みです」
リリアナ先生が教室に入ってくると、生徒たちはどよめいた。
「そのため、演習は中止……の予定でしたが、代わりに“特別講師”をお願いしています」
特別講師? ざわざわする教室。
そして次の瞬間――。
「アリア・リュミエール・レイフォードさん、お願いね」
「え゛え゛えぇぇぇぇぇ~~~~!?!?」
アリアの叫びが、校舎中に響き渡った。
◆ ◆ ◆
「む、無理です先生! 私、まだ七歳で、しかも昨日水晶壊したばっかりですしっ!」
「ええ、それが素晴らしい実績だわ」
笑顔で即答するリリアナ先生。どうやら本気だ。
「説明するだけでいいの。実演は他の先生がサポートするから」
そうして半ば押し切られる形で、“特別講師アリア”が誕生した。
◆ ◆ ◆
「えっと……じゃあ、この“魔力制御基礎訓練用の球体”を使って……まずは、少しずつ魔力を流して……」
アリアは緊張しながらも、自分が教えられてきた手順を丁寧に言葉にしていった。
「このとき、呼吸と魔力の流れを合わせるのがポイントで……あと、姿勢はこうです」
その説明は、意外なほど分かりやすく、簡潔だった。
「わかりやすい!」「先生よりいいかも!」
生徒たちが感嘆の声を漏らす。
リリアナ先生は、廊下の窓越しに満足げに腕を組んで頷いていた。
その隣には、なぜか変装したノアとレオン。
「やっぱり気になって来ちゃった……」
「制服の上からローブ羽織っても目立つよ兄さん……」
しかし、ふたりとも“魔力監視用装置”を小型化して携帯しながら、妹の安全確認を怠らない。
「ふふふ……僕の妹が、学級指導しているなんて……!」
「誇らしいけど……不安だ」
◆ ◆ ◆
授業の終盤。
アリアは、自分でも驚くほどスムーズに説明を終えていた。
「以上です! 質問はありますか?」
「アリア先生ー! この球体、うまく反応しないんですけど!」
「こっちは光りすぎて、制御できません!」
たちまち質問の嵐。
アリアはにっこりと笑って、ひとつひとつ丁寧に答え始めた。
「それは、魔力がちょっと急ぎすぎかも。ふわっと包み込む感じで……」
「魔力の出口をちょっとだけ狭めてみて?」
教室が和やかな雰囲気に包まれる。
それを見ていたノアとレオンが、廊下で同時に呟いた。
「……俺たち、もういらないかも」
「そんなバカな」
◆ ◆ ◆
放課後。
「アリアちゃん、今日の授業すごかったよ! わかりやすかったし、楽しかった!」
「ほんとほんと! また先生代わりやってほしいな~!」
クラスメイトたちの言葉に、アリアは少し照れながら笑った。
「ありがとう。でもやっぱり、先生ってすごく大変なんだね……」
家に帰ると、兄たちが立ちはだかる。
「アリア……」
「よく頑張ったな……!」
なぜか、目にうっすら涙を浮かべているノア。
レオンは花束を持っていた。
「な、なにそれ!? 花束!? いらないよ!?!?」
「いいや、初“師範代”記念だ」
アリアの長い一日は、ようやく幕を下ろすのだった。




