第三十二話 妹の“おともだち合宿”開催!? なのに兄たちが山の別荘に全員集合で台無し寸前!?
「というわけで、春の休暇中、おともだちだけの合宿をやりたいです!」
アリアのその提案に、ノアとレオンはピクリと反応した。
「女子だけの、だと?」
「兄抜きで? 俺たち抜きで??」
アリアは、ぴしりと背筋を伸ばしてうなずく。
「エマとリリィとアメリアたちと、お泊まりして、料理して、おしゃべりして……勉強もちょっとして!」
「勉強もちょっと」が非常に弱かったが、そこは見逃すとして。
「場所は……山の別荘を借りられたら嬉しいなって……」
ノアは眉をひそめる。
「山か。警備の手薄な場所は好ましくない」
レオンはにこりと笑いながらも、目が笑っていない。
「じゃあ俺たちが同行して、万全の護衛体制を――」
「ダメ!!」
アリアは両手を広げて抗議する。
「せっかく“女子だけ”でやるのが楽しいのに! お兄様たちがいたら、みんな緊張しちゃうもん!」
兄たちはしばらく無言で見つめあい……そして、こう答えた。
「……わかった」
「了承しよう」
その瞬間、アリアは心の中でガッツポーズを取った。
(やった、勝った!)
……が、勝利の喜びは、数日しか続かなかった。
◆ ◆ ◆
合宿当日、山の別荘。
エマ「アリアちゃん、このお部屋すっごく広いね〜! ふかふかのベッドが三つも!」
リリィ「見て見て! テラスからの景色が絶景よ〜!」
アメリア「お風呂も、まるで王族の温泉みたい……!」
女子たちは大はしゃぎで、キャッキャと部屋を駆けまわる。
アリアも笑顔で部屋を見渡し――ふと、妙な視線を感じた。
(……なんか、どこかから視線が?)
「……まさかね」
そう思ったアリアだったが。
夜。
食事の席。
アメリアが不思議そうに言った。
「このローストビーフ、なんだかすっごく高級なお味がするんだけど……」
エマ「それにこのスープ……うちの料理人でも、ここまでは……」
アリアは青ざめた。
(まさか、食材が……“特別ルート”!?)
そして、夜も更けたころ。
「きゃーっ!」
エマの悲鳴。
リリィがカーテンを開けると、そこには――
真っ黒な影が、窓の外にぴたりと張り付いていた。
「……お兄様!?!?!?」
ノアとレオンが、なぜか偽装魔法をまとい、屋根の上で監視していた。
「任務完了。異常なし」
「合宿に危険は確認されなかった」
「バレてるわよ!!!!」
アリアの叫びが、山の夜に響いた。
◆ ◆ ◆
翌朝。
別荘の一室では、女子たちがリビングで朝食を囲んでいた。
「えっと……昨日はその、びっくりさせちゃってごめんね」
アリアがぺこりと頭を下げる。
アメリアが笑いながら肩をすくめる。
「アリアちゃんの家のお兄様たち、やっぱりすごいわね……」
リリィもフォローするように頷く。
「でも、それだけ大事にされてるってことよ」
エマ「うんうん。すごくうらやましい……ちょっと怖いけど」
その言葉に、アリアは少し照れたように笑った。
(ほんとは、ちょっとだけ……嬉しかったのかもしれない)
◆ ◆ ◆
その頃――別荘の裏手。
レオン「よし、撤収準備。記録は残すか?」
ノア「監視魔法は保存済みだ。映像データは後日、リリアナ先生に確認してもらう」
リリアナ先生「……ええ、しっかり確認させてもらうわ。保護者として」
その目は、完全に教育者ではなく“姉目線”だった。
こうして、アリアの“女子だけ合宿”は、無事(?)に終了したのだった。




