第三十一話 妹の“家庭教師”がやってきた!? でも兄たちの審査が厳しすぎて決まりません!!
レイフォード家、応接間。
アリアはソファに座り、ややげんなりした表情で兄たちの様子を見守っていた。
「それでは、次の候補をお通しして」
執事の一声とともに、緊張した面持ちの壮年の魔法学者が部屋に入ってくる。
「ど、どうも……ルーエンと申します。王立魔法大学にて教鞭を執っております」
「趣味は?」
「え、ええと……鉱石収集と、詩の朗読を少々……」
「妹と静かに過ごす時間を邪魔しない心構えはあるか?」
「えっ!? い、妹様との時間は……むしろ、ご家族で大切に……」
「失格」
「……えっ」
あっという間に、候補者が退出させられる。
「……兄様たち、なんでそんな質問ばっかり……」
アリアは溜息をついた。
この一週間で、家庭教師候補者はすでに十五人目。
全員が高名な学者や教育者だったが、兄たちの“独自審査基準”により、ことごとく不採用となっていた。
ノア:「知識だけではダメだ。人として信頼できるかどうかが重要」
レオン:「アリアに優しすぎても甘やかしすぎる。厳しすぎるのもダメ」
アリア:「じゃあどうすれば……」
そのとき。
「お取り次ぎ申し上げます。候補者・ルイーザ=フェルマー嬢がお見えです」
入ってきたのは、落ち着いた雰囲気の女性だった。黒髪をシニョンでまとめ、知的な眼差しが印象的。
「ルイーザ=フェルマーです。以前は王立研究所にて魔力測定研究に携わっておりました。子どもとの接し方については、妹や甥たちとの交流で多少心得があります」
レオンが小声で呟く。
「経歴は……問題なし。過去の言動も不穏な点はない。声も穏やかだ」
ノアもうなずく。
「しかし、問題はアリアとの相性……」
アリアはそっと顔を上げ、ルイーザと目が合った。
「お勉強、嫌いではありませんか?」
「……はい。むしろ好きです。でも、魔法の応用はまだ苦手です」
ルイーザは微笑んで言った。
「魔法は、自分を信じる気持ちと、想像する力です。きっとアリア様なら、すぐにものにできますよ」
……その言葉に、アリアの目がぱっと輝いた。
「教えてください!」
兄たちは、顔を見合わせた。
「…………合格、か?」
「うむ……一旦、仮採用としよう」
アリアは嬉しそうに、ルイーザの方を向いてぺこりとお辞儀をした。
「よろしくお願いします、先生!」
こうして、ようやく“妹に認められた家庭教師”が決定したのだった。
とはいえ――。
その後もしばらく、ルイーザの行動を記録する“兄たちの極秘監視日誌”は、密かに綴られていたという。




