第三十話・後編 まるでおとぎ話の舞踏会!? 妹の笑顔に兄たちが涙した夜
誕生日当日。
アリアは、白と金の刺繍が施されたドレスを身にまとい、ノアから「ちょっとだけお散歩しない?」と誘われて庭へ出た。
「え、今日は……何かあるの?」
「さぁ、どうだろうね」
少し困ったように笑う兄に手を引かれながら、アリアは屋敷の中庭へと向かった。
扉が開いた瞬間、風が舞い、花びらが空に踊る。
「……えっ?」
目の前に広がっていたのは、まさに夢のような光景だった。
赤絨毯の上には煌びやかな灯がともり、純白のテントが並び、空には浮遊魔法で吊るされたランタンが優しく揺れていた。
中央には、大きなバラのアーチ。そして、そこを通って一歩踏み出すと――
「アリア様、お誕生日おめでとうございます!」
招待客たちの祝福の声が、一斉に響いた。
「……っ!」
息を呑むアリアの頬に、ふわりと風が撫でた。
その風の先、舞踏会用の仮設ステージの上では、兄たちが静かに一礼する。
「君が生まれてくれて、本当にありがとう」
ノアの声が、温かく響く。
「これからも、何があっても俺たちが味方だからな」
レオンも、瞳を潤ませながら笑った。
ふたりの言葉に、思わず目がうるむアリア。
そこへ現れたのは、招待されていた王太子アルヴィン。
「アリア嬢、おめでとう。……この国の未来は、きみのような人が照らしてくれると、私は信じている」
「そ、そんな……っ」
舞踏会は、甘い音楽と笑顔に包まれながら進んでいった。
美しいケーキ、贈り物、笑顔、ダンス。
けれど――そのどれよりも、アリアの心に響いたのは、兄たちの涙だった。
「ノア兄様、レオン兄様……」
「うっ……こんな立派に育って……っ」
「今日まで……どれほど楽しみにしてたか……!」
兄たちは感無量で、もはや理性を手放しかけていた。
「ちょ、ちょっと! お兄様たち! 泣かないでよ!」
「無理だーっ!!」
ふたりが顔を手で覆ってしゃくりあげる姿に、周囲の貴族たちは優しい笑いをこぼした。
そして最後に、アリアはステージの上で一礼して、笑顔で言った。
「わたし、レイフォード家に生まれて、本当に幸せです」
その言葉に、兄たちはまたも崩れ落ちた。
「もう無理……尊い……」
こうして、レイフォード家史上最大の“サプライズ(バレバレ)舞踏会”は、温かな涙と笑顔に包まれて幕を下ろした。




