第三十話・前編 妹に“サプライズ誕生日会”!? ……なのに準備が王族レベルで逆にバレバレです!!
レイフォード家の邸宅の一室。
ノアとレオンは、テーブルを囲んで密談していた。
「さて、そろそろアリアの誕生日だが……」
「完璧に祝わねばなるまい」
「当然だ。あの子が生まれた奇跡を、盛大に称えなくては」
兄たちは真剣な眼差しで頷き合うと、分厚い資料を机の上に積み上げた。
それは『王城公式晩餐会マニュアル』『高位貴族式典進行手順』『魔法演出のための基礎と応用』など、明らかにサプライズとは程遠い、国家行事レベルの文書だった。
「今回は、“あくまで自然な驚き”を演出したい」
「だが、準備に抜かりがあってはならない」
――結果。
アリアの誕生日一週間前から、屋敷の中庭に巨大な天幕が張られ、花職人が昼夜問わず飾りつけを行い、給仕たちは“予行演習”を始めた。
「このパイの切り分け、もっと美しく!」
「いや、このリボンの色ではアリア様に似合わん!」
次第に“サプライズ”のはずの準備が、屋敷中に知れ渡っていく。
「……お兄様たち、何か隠してる」
アリアは、リリアナ先生の授業中も心ここにあらずだった。
「アリア、今日の呪文詠唱、間違ってないけど……なにか気になることでも?」
「え、あ、はい……なんでも……」
(でも、あのリボンの箱、どう見てもお祝いの準備だよね……)
一方その頃。
ノアは馬車職人を招いていた。
「“花で覆われた純白の馬車”を、誕生日当日までに完成させてほしい」
「……納期、三日ですか?!」
「問題ないな?」
「は、ははっ、もちろんです!」
レオンは、舞踏演出のリハーサルを指導していた。
「花びらの散らすタイミング、三拍目で! 照明係、魔晶灯は八分の光量でお願い!」
使用人たちは目を回しながらも、レイフォード家の本気を痛感していた。
そしてついに――誕生日前日。
「アリア様、今日は少し外出をお控えいただけますか?」
「え? どうして?」
「お庭に、ええと、珍しい蝶が……えっと……」
「あのね、それ、もう隠す気ないよね?」
アリアは溜息をつきつつも、微笑んだ。
(どうせなら、楽しませてもらおうかな)




