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第二十八話 アリアに“ファンレター”到着!? 兄たちの怒涛の“差出人追跡劇”が始まった!!

春風が心地よく吹き抜ける朝、アリアはいつものように教室に入ると、自分の机の上に一通の手紙が置かれているのに気づいた。


(……これは、何?)


可愛らしい封筒には、金の縁取りと小さな花の模様。差出人の名前はない。


「え、だれかからのお手紙……?」


思わず周囲を見渡すが、クラスメイトたちはそれぞれ談笑していたり、準備をしていたりで特に気にしていない様子だった。


(まさか、またファンクラブの……?)


恐る恐る封を開くと、中には丁寧な筆跡でこう書かれていた。


――『発表会、素晴らしかったです。いつも勇気をもらっています。これからも応援しています』


アリアは目をぱちくりと瞬かせた。内容はごく普通のファンレター。

けれど、まっすぐな言葉が心に染みる。


(……嬉しい、けど……これ、どうしよう……)


放課後、アリアはその手紙を屋敷に持ち帰り、軽い気持ちで兄たちに見せてしまった。


「ねえ、今日こんなのもらったの」


それが、すべての始まりだった。




「……これは誰からのものだ?」

ノアの目が鋭く光る。


「署名も何もないのか?」

レオンも封筒を手に取り、まるで魔物でも扱うように慎重に裏返す。


「ちょ、ちょっと! 普通の手紙なんだから、そんなに警戒しなくても!」


「アリア、お前のことを“いつも見ている”と書いてある。これはもう警戒するしかないだろう」

「うむ、これは確実に“観察”のレベル……追跡の必要があるな」


兄たちの顔が、いつもの優しさから“過保護モード”へと切り替わる音がしたようだった。




翌日。


ノアは早朝から自室で“筆跡鑑定”を始めていた。貴族の子弟たちはみな筆記訓練を受けており、筆跡には微妙な個性がある。


「ふむ……この『も』の払いは、第二学年のリヴィエール公爵家の息子と酷似しているな」


彼の机には十数枚の筆跡サンプルが並んでいた。


「いや待て、この“て”の丸み……もしかすると女子かもしれん。クラリス嬢か……?」


一方レオンは、物理的な調査に出ていた。


「すみませーん、昨日この封筒と似たものを買った人っていますか?」


校内の文具売店を訪ね歩き、似た封筒を買った生徒のリストを作っていた。


そして昼休み、ふたりは図書室の一角で情報を突き合わせる。


「俺は十人に絞り込んだ」

「こっちは五人。だが三人が一致している。つまり、容疑者は――」


「ちょっと待って!!」


図書室に駆け込んできたのは、アリア本人。


「ふたりとも……そんなに大事にしないで! 普通の手紙なの! 優しい内容だったの! 誰かに感謝するだけで十分だったのに!」


ノアとレオンは顔を見合わせる。


「だが、お前に想いを伝えるにはそれなりの覚悟が必要だ」

「俺たちの妹だからな。むしろそれだけで試練だ」


アリアはもはや半泣きだった。


「だからって……兄様たちがこんなに全力で追跡するなんて、差出人も怖がっちゃうよ!」


その時。


「ご、ごめんなさい! 僕です!」


ひとりの少年が、意を決して名乗り出た。細身で眼鏡をかけた、同学年の優しげな男の子だった。


「君の詠唱に本当に感動して……気持ちを伝えたくて、でも名前を書く勇気がなくて……!」


「……そ、そうだったの」

アリアはふっと力が抜けたように笑った。


レオンがじろりと睨む。


「ほぉ。で、お前はアリアに対して“真剣”なのか?」


「ち、ちがいますっ! 尊敬です! 推しですっ!」


「……推し?」


「つまり、尊敬と崇拝の対象ってことだろう。恋愛ではないな」


ノアが解説し、レオンがふむと唸る。


「なら、今回は許す……だが、次に名乗らず手紙を出したら、覚悟しろよ」


「は、はいぃぃぃっ!!」


少年はその場を逃げるように走り去っていった。




その日の夜、アリアはベッドの中で、再び手紙を見つめていた。


(名前がなくても、想いって届くんだな……)


ふわりと微笑み、彼女はそっとそれを引き出しにしまった。


「おやすみなさい、お兄様たち……次は、もうちょっと静かにしてくれますように……」



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