第二十七話 図書室でささやく噂!? “アリア様ファンクラブ”がこっそり発足中です!!
発表会の大成功から数日後、王立初等学園の空気が微妙に変わり始めていた。
「……ねえ、見た? あれがレイフォード家のアリア嬢よ」
「うそ、ほんとに? 写真より可愛い……!」
朝の登校時間。廊下を歩いているだけで、アリアは複数の視線を感じていた。制服の袖をきゅっと握りしめながら、そっと歩みを早める。
(なんだか、最近ずっとこんな感じ……)
教室に入っても、そのざわめきは静まらない。
「アリア様って、魔法の才能もあるし、礼儀正しいし、なによりあの発表会の立ち姿……」
「私、あのときの詠唱の声が今も耳に残ってるの。まるで鐘の音みたいに澄んでて……」
アリアは顔を伏せて、自分の席に座った。褒められるのは嬉しい。でも、こうも過剰な注目を浴びると、どうにも落ち着かない。
放課後、気持ちを落ち着けるために、彼女は学園の図書室へ向かった。重厚な扉を押し開けると、静寂と紙の香りが迎えてくれる。
(やっぱり、ここが一番落ち着くな……)
お気に入りの隅の席に腰を下ろし、読みかけだった魔法理論書を開いたそのとき。
「アリア!」
ひそやかな声で彼女を呼ぶのは、情報通で友人のエマ・ハートだった。彼女は小走りでアリアの席に近づき、周囲を確認するように目を光らせる。
「どうしたの?」
「……あのね、ちょっと面白い話があるんだけど、驚かないでね?」
アリアは首をかしげる。
「……驚かない保証はできないけど、聞くだけ聞くわ」
エマは椅子に腰掛け、声を潜めて続けた。
「最近、“アリア様ファンクラブ”っていう秘密の会ができたらしいの」
「は……?」
「“正式名称は『レイフォード嬢を静かに見守る会』。活動内容は、アリア様の行動記録を取ったり、名言をまとめたり、イラストを描いたりすること、なんだって」
アリアの顔がみるみるうちに真っ赤になる。
「ちょ、ちょっと待って! それ、完全にストーカーじゃないの!?」
「一応“静かに見守る”って名前についてるから、接触はしないルールらしいよ」
「そういう問題じゃないってば……」
エマは肩をすくめつつ、さらに耳打ちするように言った。
「実はね、その“会”の一部のメンバーが、今日この図書室に来てるの」
アリアは反射的に周囲を見渡した。
視線の先、壁際の長テーブルに座る数名の上級生男子たちが、妙に静かで真剣な表情をしている。
(あの人たち……)
彼らのノートの一部には、「本日のアリア様のヘアスタイル:ゆる巻きツインテール」「本日の感想:発表会よりさらに輝いていた」などと書かれているらしい。
アリアはぶるっと震えた。
「……帰ろうかな」
エマが慌てて手を伸ばす。
「待って待って、みんな悪気はないのよ。むしろ好意しかない。でもまあ、本人が困るようなら……」
「困るよ!!」
さすがに声が大きくなり、司書に睨まれる。アリアは慌てて口を押えた。
その日の晩、アリアは屋敷のダイニングで兄たちと顔を合わせた。
食後のデザートを口に運びながら、ぽつりと呟いた。
「……あのね、学園に“ファンクラブ”ができたみたいなの」
「……ファンクラブ?」
ノアがスプーンを止めた。
「妹のファンクラブ? ふーん……それってどういう連中?」
レオンの声が明らかに低くなる。
「べ、別に悪いことはしてないみたい。ただ、“静かに見守る会”って……」
その瞬間、兄たちの瞳がギラリと光る。
「“静かに”……だと? 逆に怪しい」
「うん、絶対怪しい。静かにしてる奴ほど危ないって言うし」
「違うよ! 本当に静かだったよ!」
「アリア、今日から学園の行動は毎回報告すること。特に男子との接触があった場合は詳細に」
「うん、場合によっては俺が毎日送り迎えするか……」
「そ、それは困るーっ!」
次の日。アリアが登校すると、やたらと視線が集まってくる。いや、昨日から視線は感じていたが、今日は何かが違う。
「な、なんでレオン兄様が校門の前で旗を持って立ってるの……!?」
「“アリア頑張れ! 今日も完璧!”って書いてある……!」
しかもその旗は金糸の刺繍入りで、明らかに特注品。
一方、ノアは図書室に“ある目的”でこっそり訪れ、例のグループの動向を観察していた。
「……なるほど、あの五人が主要メンバーか」
彼の手帳には名前、学年、出身貴族名、得意属性などがびっしりと書き込まれていた。
「兄様たち、ほんとにやりすぎ……」
その日の夕方、アリアはリリアナ先生に呼び止められた。
「アリア、生徒会からちょっとした苦情が来ているの。お兄様たちの熱心すぎる“応援”について」
「……すみません」
「あなたが謝ることじゃないわ。でも……伝えておいてくれる?」
「はい……」
(どうしよう……お兄様たちがどんどん本気になっていく……)
一方、兄たちはというと――
「学園に潜入する必要があるかもしれんな」
「よし、変装して潜り込もう!」
学園はまだまだ波乱の予感に包まれていた。
このところなんか 桃が食べたくて食べたくて・・・桃で書いていたら
『ももたましい!〜桃の王国と十二品種の姫君〜』
こんな話になってしまった。相変わらず、乗りと勢いで書いています。
もし桃が食べたいと思ったら(食べたくなくても) 一度読んでみてください。
[ボソッと、また桃狩り行きたいなぁ 中込○園とか…]




